1798人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんだよ、その態度」
──あ、怒ってる。慎二って怒ると面倒なんだよね。なにしろ、「テツオ」だから。
「せっかく、ここまで来たのに」
いや、頼んでませんから。そう言いたいのを飲み込んで、わたしは慎二の顔をキッと睨みつけた。
「なに、その顔。いいから答えろよ。この大学のやつなのかよ」
ふいに、右腕を強い力で掴まれる。思わず「痛っ」と声が出てしまった。
「別れてすぐ彼氏作るってどういうこと?二股とかじゃないよな?」
「んなわけ、ないでしょ……」
いよいよ腹が立って、怒鳴ってやろうか蹴ってやろうか、いっそのこと叫んでやったらどうだろう。そんな物騒なことを考えていた、そのとき。
「人の彼女に気安く触らないでもらえます?」
聞き慣れた声が頭の上から降ってきて、わたしの腕を掴む慎二の手を振りほどく。
「俺が彼氏ですけど、つぐみに何か?」
「佳祐……」
佳祐は物凄く怖い顔で慎二を睨みつけながら、わたしの肩をふわっと抱き寄せた。マルメンと香水の匂いが漂う。
さっきまでは全然平気だったのに、安心して急に身体の力が抜ける。気を抜いたら膝が落ちてしまいそうだ。
「つぐみ、こいつが」
「人の彼女の名前、気安く呼ばないでもらえます?」
慎二も負けじと佳祐を睨みつけるが、身長差があるせいか、全く威嚇になっていない。
「慎二」
ぐっとわたしの肩を抱く佳祐の手を優しく解いて、わたしは一歩前に踏み出した。慎二の目をまっすぐ見据えて、静かに息を吸う。
「あのね、わたし、今この人と付き合ってるの。二股とかは絶対にないから安心して」
「つぐみ……」
「彼氏のこと、大切にしたいの。もう慎二に用はないし、一生会いたくない」
慎二は「えっ」と小さく声を上げて、力なく俯いてしまった。3年付き合っていた情が少しは残っていたのか、そんな彼の姿が哀れに思える。
最初のコメントを投稿しよう!