Side:Tsugumi***

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「なんだよ、その態度」 ──あ、怒ってる。慎二って怒ると面倒なんだよね。なにしろ、「テツオ」だから。 「せっかく、ここまで来たのに」 いや、頼んでませんから。そう言いたいのを飲み込んで、わたしは慎二の顔をキッと睨みつけた。 「なに、その顔。いいから答えろよ。この大学のやつなのかよ」 ふいに、右腕を強い力で掴まれる。思わず「痛っ」と声が出てしまった。 「別れてすぐ彼氏作るってどういうこと?二股とかじゃないよな?」 「んなわけ、ないでしょ……」 いよいよ腹が立って、怒鳴ってやろうか蹴ってやろうか、いっそのこと叫んでやったらどうだろう。そんな物騒なことを考えていた、そのとき。 「人の彼女に気安く触らないでもらえます?」 聞き慣れた声が頭の上から降ってきて、わたしの腕を掴む慎二の手を振りほどく。 「俺が彼氏ですけど、つぐみに何か?」 「佳祐……」 佳祐は物凄く怖い顔で慎二を睨みつけながら、わたしの肩をふわっと抱き寄せた。マルメンと香水の匂いが漂う。 さっきまでは全然平気だったのに、安心して急に身体の力が抜ける。気を抜いたら膝が落ちてしまいそうだ。 「つぐみ、こいつが」 「人の彼女の名前、気安く呼ばないでもらえます?」 慎二も負けじと佳祐を睨みつけるが、身長差があるせいか、全く威嚇になっていない。 「慎二」 ぐっとわたしの肩を抱く佳祐の手を優しく(ほど)いて、わたしは一歩前に踏み出した。慎二の目をまっすぐ見据えて、静かに息を吸う。 「あのね、わたし、今この人と付き合ってるの。二股とかは絶対にないから安心して」 「つぐみ……」 「彼氏のこと、大切にしたいの。もう慎二に用はないし、一生会いたくない」 慎二は「えっ」と小さく声を上げて、力なく俯いてしまった。3年付き合っていた情が少しは残っていたのか、そんな彼の姿が哀れに思える。
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