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「今日も泊まってくだろ?」
いつもの居酒屋で、佳祐がタバコを吸いながら平然と言う。
「う、うん……」
──やだな、わたし。なんで佳祐なんかにドキドキしてるんだろ。タバコを挟む長い指や煙を吐く表情、ひとつひとつに過剰に反応してしまう。
「うちに着替えとか置いといたらいいんじゃない?」
「うん……」
わたしは佳祐とうまく目を合わせられなくて、ひたすら枝豆を剥いては口に放り込む。
「化粧水とか、クレンジングとか」
そう言って佳祐は大きなザンギを頬張った。
「そう、だね」
「つぐみ、聞いてる?」
顔を上げると、佳祐が怪訝そうな顔でわたしを見つめていた。
「なんだよ、今日全然喋ってくんないじゃん」
「……なんでもないよ」
──言えるか。どんな顔したらいいかわからないなんて。
佳祐こそ、あんなエッチしといてなに平気そうな顔してんのよ。やっぱり図太いんだよね、こいつ。
「俺といると、思い出しちゃう?」
「バ、バカじゃないの」
なんでわかるんだ、変なとこ鋭いんだから。佳祐を睨みつけると、「今日もしような」と満面の笑みで返されてしまった。
「毎回あんなの、身体持たない」
「それは褒め言葉だと思っていい?」
どことなく浮き足立っている佳祐に「ふざけんな」と言おうとした──そのときだった。
手元に置いたスマホが震えた。すぐに切れないから、メールやメッセージじゃなくて電話だ。
なんだろ、こんな時間に──そう思って画面を見てぎょっとする。電話の主はあいつだった。
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