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「つぐみ、電話出なくていいのか?」
「う、うん。たぶん、勧誘かなんかだと思うから」
そう言ってスマホをカバンに突っ込む。しばらく震えていたけど、やがて止まった。
──なんで、いまさら。
電話は、テツオ──元彼の慎二からだった。別れてから一度も連絡なんて取っていなかったのに、なんの用だろう。
「ふうん。それなら、いいけど」
「うん……」
俺ちょっとトイレ、と佳祐が席を立ったので、姿が見えなくなってからスマホを確認してみる。
「会いたい」
ロック画面に浮き上がった4文字に、胸がひやっとした。慎二からのメッセージだ。
「……なんなの、いまさら」
驚きのあとに怒りが込み上げてくる。女らしくないだのガサツだの酒癖最悪だの、あれだけ人のこと罵倒しておいて。
「こっちは二度と会いたくないっての」
ブツブツと呟きながら、メッセージを未読のまま消去する。見なかったことにしよう。着信履歴も削除っと。
「そろそろ出るか」
削除し終えたところで、トイレから戻ってきた佳祐に声をかけられた。
「もう?」
「飲み放題の時間、終わってるし。支払い済ませてきたから」
「え、なんで?」
「なんでって、彼氏が彼女に奢るのってそんなに変?」
佳祐は当然のように言って、わたしのバッグを持って出口の方に歩いていってしまう。
「ちょっと、佳祐?!」
手ぶらでスマホだけを持ったまま、慌てて佳祐の後を追いかける。今まで、毎回ワリカンにしていたのに。付き合い始めたからって、こんなの──。
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