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「いつも通りワリカンにしようよ。わたしだってバイトしてるし、そんなに困ってない」
お店を出たところでバッグを取り返した。財布から3000円を抜き取って佳祐に押し付ける。
「いらねえって」
「だって、いつもワリカンでしょ。別に奢ってもらう理由ないし」
「お前な……こういうときは、黙って奢られておけよ」
佳祐はため息をついて、わたしの出した3000円を突き返してくる。
「彼女だからって、こんなの……突然、変だよ」
「男の気持ちがわからない女だな、ほんと」
「なによそれ」
「こういうときはな、可愛くありがとうって言っとけばいいんだって」
佳祐が呆れ顔で放ったその言葉にカチンと来て、「なによそれ」ともう一度繰り返す。
「どうせ、わたしは可愛くないわよ」
──なによ、佳祐のくせに。ちょっと前まで友達だったくせに、突然彼氏ヅラしちゃって。
「つぐみ、なに怒って」
「今日は帰る」
「おい、つぐみ」
「可愛くないので帰ります。どうせまた来週、大学で会うでしょ」
そう言って、佳祐から逃げるように早足で地下鉄の駅に向かう。途中で振り返ったけど、佳祐はわたしを追って来てはいなかった。
──なんなのよ、急に。
こんなふうに扱われたら、どうしていいかわからなくて素直に「ありがとう」なんて言えない。
「彼女」として佳祐と一緒にいることが、くすぐったくてたまらない。今まで気づかなかったけど、あいつとは恋愛偏差値も違いすぎるし。
こんなんでうまくやっていけるのかな。「親友」のときと同じ感じじゃダメ、なのかな。
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