成金流手紙募金

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成金流手紙募金

いつもいつもSNSで大炎上している、とても嫌われている成金がいました。その成金はとある事業を起こして一躍時の人になりました。 ところが、事業に不可欠な取引業者からの信頼を失い、取引業者は次々と撤退、せっかく起こした事業が傾きました。 事業を大手通信会社へ売却し、成金は社長の座を退くことになりました。 しかし、持ち株を大手通信会社に売り抜けたので、成金はしっかり儲けて、転んでもただでは起きません。 ネット上では、 「成金が地に落ちた、ざまあ」 「金に翻弄されて惨め」 「更にデカイ資本に食われて悔しいのう」 など、罵詈雑言、誹謗中傷が拡散されていきます。 そんな中、社長の座を退いた成金は、 「僕の私書箱に手紙を送ってください。差出人の名前、住所は個人情報なので不要です。封筒を含めた手紙の束の厚み分だけ、一万円札を今年災害に遭った被災地に寄付します」 そうSNSで発信すると、 「リプライの数掛ける10円寄付した、自称インフルエンサー坂本の真似かよ。どっちもクソ、注目浴びたいだけ」 「二番煎じ、芸がないぞ」 「まだ金持ちぶってる、うざい」 またしても成金のSNSは大炎上。しかし、災害が多い年だったので、成金の私書箱には手紙がひっきりなしに届きました。自分では万単位の寄付など到底無理でも、手紙を送るだけで、手紙の厚さ分だけ成金が一万円札に変えて寄付してくれるのです。 もしかしたらとんでもない大嘘つきで、手紙の厚み分だけ一万円札を寄付するなんて実際にはやらないかもしれない。いくら持ち株を売り抜けたとはいえ、事業を売却して金銭的に成金は苦しいはずです。それでも、封書82円、厚みが増すと92円、中には、公募に落ちた小説の原稿用紙を丸ごと送付して580円の切手を貼って送った人もいました。 成金は、応募期間に集まった手紙を律儀に計測してSNSで動画を公開して、 「もう少しで9000万円ですね。切りのいいところで1億にしておきましょう。」 1億をポンと寄付しました。 それだけにしておけばいいものを、成金は、1億の寄付の証明書と一緒に、全国から寄せられた善意の手紙を、自分の別荘の庭で盛大に燃やしてしまいました。ご丁寧にその様子を動画に撮って、またSNSにアップして、 「形あるものはいずれ滅びる、事業も善意もその人の生きた足跡さえも」 カッコつけた彼の台詞は、ネットで憂さを晴らしたい名もなき人達のかっこうの餌食でした。 「手紙を燃やして実況するとか人間の屑」 「燃やすくらいなら手紙なんか受け取らずに黙って1億寄付しろ、ボケ」 「善行もやり方によっちゃ悪行」 彼は全国から嫌われ者のレッテルを貼られました。 それからニ年後…。 成金はそっと息を引き取りました。まだ40代前半だった彼は進行の速いガンで闘病していました。彼を看取った妻は、久しぶりに押し寄せたマスコミの取材にこう答えました。 「嫌われ者でしたが、本当はシャイな人だったんです。素直に寄付したり出来ないから、頂いた手紙を火にくべてしまったり。ニ年前、全国の皆様に大変不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした。何か寄付する理由が欲しかったんでしょう。自分の余命を知って、世の中のためになることを最期にしたい。でも、彼は嫌われ者で傲慢な自分のキャラクターを壊したくなかった。自分勝手でどうしようもない人でしたが、その不器用さを心から愛しいと私は思います」 闘病のことは完全に伏せられていたので、マスコミも通夜の後の成金の妻の取材で初めて、彼の手紙募金に隠された真実を知った。 ネット上に残されたまま、まだ遺族によって消されていない成金のSNSは珍しく追悼コメントで溢れていた。 「意外といいヤツなのに、罵ってごめん」 「ツンデレかよ、泣かせるなって」 「いいヤツほど早く死ぬんだな」 そして、彼の寄付金が送られた全国各地の被災地から、彼の死を追悼する手紙が送られました。その手紙に関して、成金の妻は自分のSNSを更新。 「彼のお棺に入れます。彼に皆様の思いが届くように。あれだけ悪ぶった主人の死を悼む手紙を頂けるとは思ってもみませんでした。」 成金の葬儀の日、全国から寄せられた手紙は彼の亡骸とともに燃やされ、白い一筋の煙へと変わった。
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