1人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、月に一度の全園の集会が幼稚園2階のホールで行われた。この集会では、園長先生のお話であったり、その月の誕生日の子たちが舞台に集められてお祝いをしたり、月ごとの出し物が催されていた。
そんなオレンジ色のあたたかい光の差す舞台の上に、みゆきちゃんが立っていた。
「あ、みゆきちゃんだー」
と体育座りをしながら私は見つめた。みゆきちゃんの表情は、昨日会ったときと比べて少し硬かった。しかし、目はキョロキョロせず、じっと正面を見つめていた。
「はい。そして、みなさんに、お知らせです。すみれ組の神原みゆきちゃんが、お父さんのお仕事の関係で、北海道に引っ越しすることになりました」
舞台の横のスタンドマイクの前で、すみれ組の先生がそう言った。主にすみれ組の列から、
「えええええ!」
という驚きの声が聞こえる。私はゆり組だったけれど、ゆり組の中にも、年少のときからの知り合いの子はいたようで、ところどころ、えー、と漏らす声が聞こえてきた。
私は、一度、えっ、という声を上げたものの、遠くに立っているみゆきちゃんを黙ってひたと見つめた。みんながどよめく中で、彼女は凛としていた。
そのときの私は、「え、次の日にお別れって知ってたのに、なんで友達になったの!?」と少し裏切られた気持ちになってしまった。
けれど、引っ越しする直前であっても、友達になりたい、と思ってくれたということは、とてもありがたいことだなと思った。
実際に、その集会が終わったあとも、それ以降も、私がみゆきちゃんに会うことはなかった。
傍から見たら、私達は、「友達になれていなかった」のかもしれない。
けれど――みゆきちゃんにとっての私は、そうではないかもしれないけれど、私にとって、その思い出は、鮮明に残っている。
最初のコメントを投稿しよう!