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幼稚園の年中さんのときのことだった。私の幼稚園の隣には、こぢんまりとした、英会話の習い事の会場になる程度の集会所があった。そこで、毎週火曜日だっただろうか、絵本の読み聞かせが行われていて、私は常連だったというわけではないけれど、よくそこにお話を聞きに行っていた。
その日の読み聞かせが終わって、園児たちがわらわらと自分の脱いだ靴を見つけて履いている間、私は彼らの後ろで、順番を待っていた。私は幼稚園のとき、かなりぼーっとした女の子だったから、そのときも、ぼーっと周りをなんの気無しに眺めていた。周りを見回していたら、壁に寄りかかっていた、毛先がピョンピョン跳ねる髪を二つ結びにした、黒黒とした目の大きな女の子と目が合った。
とはいっても、ぼーっと周りを見ていたときに、知らない人と目が合うということも、一日のうち数回はあるだろう。このときも、私は、そのような類のものだろうとしか思っていなかった。
しかし、その少し日焼けしたその女の子は、私に近づくと、開口一番に、
「友達になろう」
と言ってくれたのだった。
私はびっくりした。幼稚園生とはいえ、どストレートに「友達になろう」という言葉で友達になった子が私にはそのときまだ居なかったのだ。
同じクラスで、名前を覚えて、ナチュラルに一緒に遊んだりする中で仲良くなるとか、お母さんどうしが仲良くて、そこから一緒に遊ぶうちに、友達になる、というのがその頃の私の常識だった。
けれど、そのどストレートな「友達になろう」という言葉も、私には、嬉しかった。
「うん!」
私は笑顔でうなずいた。私がうなずくと、その女の子も、ホッとしたように、口角を上げた。
「わたし、みゆき。名前は?」
その子が自己紹介をしてくれて、私は、
「あゆちゃんだよー」
と彼女のキラキラした黒い瞳を見つめて名前を言った。
「あゆちゃん。よろしくねー」
そのようなやりとりを終えると、私達は、並んで座り込み、一緒に靴を履いた。
外で待っていたお母さんのところに戻ってから、みゆきちゃんを振り返って、私達は、笑顔で手を振り合ってお別れした。
「今の子は?」
「みゆきちゃんっていうんだってー。今日友達になったんだー」
「そうなんだ。良かったね」
私は、家に帰りながら、お母さんとママチャリの前後でそんな話をした。新学期、という節目でもないこの時期に新しい友達ができるなんて、と私は本当に嬉しく思った。お母さんの漕ぐ自転車で浴びる風がいつもに増して心地よかった。
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