最低最悪の男

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最低最悪の男

 スヴェン班は箒兵第二大隊に所属している。第二大隊隊長はミハル大尉であるが、平時の組行動、班行動の際は大隊長として動く彼を見ることはない。彼もあくまで一人のパートナーであり、そして班長なのである。  実際ウェスリーは入隊して配属が決定した後、訓練以外で大隊単位の行動を経験したことが未だなく、それ故ミハルが戦闘行為を行っている姿も未だ見たことがないのだった。  先日の件以降、ウェスリーはスヴェンや他の班員にそれとなくミハルの話を振って、情報を集めようとしてしまっていた。 「ミハル隊長? がどうかしましたかぁ?」  師団兵営からやや離れた練兵場の草地にて。小隊訓練を終えて、各自の個人装備を点検する。野戦用外套を地面に広げた上に装備を並べ、その中の短刀をつぶさに見ながらフロルが問い返す。  彼の横で座って同じように点検を行っているウェスリーは、問い返されたことで少し気後れしながらも質問を繰り返した。 「…どういう人なのかと思いまして」 「ウェスリー伍長、知らねえんですか。もぐりってやつですね」  フロルがやや強い語調で言った言葉に、ウェスリーはうっと喉が詰まったようになる。訓練学校在籍時にも同様のことを言われた気がする。  だが、フロルは続いて話し始める。 「すげえ強い人ですよ。個人で討伐した魔物の数、リパロヴィナ史上で五本の指に入るんじゃないかって噂です。しかも入隊して数年でそれって、ほんとにすげえことだって」 「でも上官の言うことにすーぐ楯突くから、一部のお偉いさんには目の敵にされてるとか」  横からヤンが参加してきた。 「そうそう。あ、でも上官だけじゃねえんだな。部下にだって気に食わなきゃ殴る蹴る。今はまだ丸くなったらしいすけど、ミハル隊長がまだ小隊長だった頃は隊の野郎共は戦々恐々」 「それに色々雑なんですよね! ミハル隊長の使ってる備品はすぐ壊れるってんで、俺の同期で経理科に行った奴は頭抱えてましたねえ」 「顔に似合わず乱暴だよなあ。そんであの気紛れ、パートナーになる奴は誰だって難儀するとか」 「まあフロル上等兵殿にはミハル隊長のパートナーなんて無縁の話でしょ」 「おお? お前言うようになったじゃねえかヤン二等兵」 「もう一等兵ですよ!」  いつの間にか二人の会話になっているのを横目で見ながら、ウェスリーは魔法薬の携行用小瓶を薬嚢から取り出して並べる。割れや欠けが無いか一つずつ確認しては広げた外套の上に戻していく。  目では薬瓶を注視しているが、頭の中は今二人から聞いた話のことしか考えていない。  最低最悪だ。  絶対に好きになれない類の人間だ、ミハルという男。
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