ジェマ

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 父への拭えない不信感を抱いたまま、ウェスリーはその翌日生家を発った。  父アリスターは既に庁舎へ出勤していていなかったが、ジェマと他数人の女中が玄関先まで見送ってくれた。  まだ正規の軍服を支給されていないため訓練兵の制服を着て街路に立つウェスリーの生徒帽に、ジェマは今朝手折って来たのであろう瑞々しい菩提樹の枝を二本刺した。 「御加護を」  そう言うと少し赤味を帯びた眦で微笑んだ。  ウェスリーは、彼女が最後まで父の指示に反対してくれていたことを知っている。雇用主に正面から意見するなど、まだ若いジェマにとってそれこそ自らの首を賭けるような行為に相違なかったろうに。  小さく有難うと言って、それ以上は何も言えず、ウェスリーはその場を後にした。  そうして当日中に、列車と馬車を乗り継いで着いたオチ第七師団兵営の門をくぐったのである。
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