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彼からの手紙
夜の帳が降りた、零時過ぎ。
ふくろうがほーほーと鳴いている。
そして物書きに励む女性が一人。
部屋の灯は消され、ただ木造の机にぽぉと橙の小さな灯があるのみ。――その灯は外へと繋がる襖を薄らと照らしている。
女性は小さな橙の灯の中、絹で仕立てられた白色の寝間着に薄い灰色の羽織を掛けながら、畳の上に正座をし、背筋を伸ばし。
ただひたすら……物書きに励んでいる。
「はぁ……」
不意に女性の口から息が漏れた。
それは溜息ではない。
白色の紙に綴られた沢山の文字。それを書き終えた達成感の息である。
筆を置き、女性は書き終えた紙を丁寧に三つ折りにして、桜の模様が描かれた長方形の封筒に入れた。
そっと封筒を机の上に置いて、女性はゆっくりと腰を上げる。衣擦れする音が、ふくろうの鳴き声しかしない部屋に混ざった。
サァァ――
夜風が、艶やかな女性の黒髪を擦り抜けて行く。
黄金色に輝く月に照らされて、サラサラと靡く髪は星ぼしが輝くようにキラキラと光った。
「浩一郎様……――」
男の名を呼ぶ女性の声は掠れていた。
ハラリと。
一粒の涙が月明かりに照らされながら、零れ落ちていった……。
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