不自然消滅

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 好きな男が連絡をよこさなくなって一週間が経つ。  しばらく他愛のないメッセージのやりとりを楽しんだその男が、私との自然消滅を狙っていると確信したその夜、私はこの世から消えてやろうと決意した。そんなに私に消えてほしいなら、お望み通り世界から消滅してやろう。  私はショルダーバッグをひっ掴み、アパートの自分の部屋を出た。ヒールを履いてはいたが、よろけることなく歩けた。アドレナリンのおかげだ。ほとばしる集中力とみなぎるやる気。消えてやる。この高揚感も、今夜限りだ。  しつこく言い寄ってきたのは向こうのほうだった。  いや、言い寄ってくる、という表現すら正確ではないし、現実はもっとひどかった。仕事中、こそこそと遠くからじっとこちらを見つめて、何かといえば偶然を装って近づいてきて、本当にしつこい男だった。しかもこちらが無視をすれば、ずっとそのままじっと見てくるし、かといって話しかければ、「仕方ないな」という態度で横柄に扱ってくる。最低だった。が、私も私だ。そこに可愛らしさを感じて、まあ付き合ってやってもいいかな、なんて思ったのはまったくバカだったとしか言いようがない。  でも、だ。  こちらは誠心誠意対応したのだ。無下にしたことはないし、話を楽しくするために話題を振ったり、色々と気遣ってやった。返信が何日も遅れても、デートの誘いがまったくこなくても、「彼のペースがあるんだし」と寛大な心で待っていた。それがどうだ。蓋を開けてみれば、彼は「忙しくて返信忘れてた」だの「飲み会だった」だのと、何も言ってこない。挙げ句の果てに、自然消滅狙いの未読スルー。死ね、それ以外の感情が湧いてこない。  そんなバカのために死ぬのは馬鹿らしい?   そう言われることなど知っている。  でも、私は、自分がこんなにもバカにされて苦しんでいるのに、あんな男がやがてのうのうと結婚して幸せな家庭を築くのだと思うと、とても一人で部屋の中になんていられなかったのだ。  死んでやる。  この世から消えてやる。  この世からいなくなった後、あの男の周囲の人間はこう言うだろう。 「あの子がいなくなったのは、一体どこの誰のせいだろうね?」と。
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