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生きたい
「え、原因不明って、私が治療法のない病気になってるの…」
病院の診察室で膠原病の一つだと診断された。
薬剤師の資格のある私に、医師の説明なんて聞かなくても、何が待っているのかわかる。
「このまま死ぬってあるのかなぁ」
月島 陶子38歳、結婚歴無しの私は、身寄りもないので一人で入院手続きをした。入院誓約書に9月24日と今日の日付を記入して年内に治したいと思いながらサインをした私は、まだ生きようとしているのだと思った。
一旦、自宅マンションに戻って荷物をまとめた。淡々と作業をする自分に徹した。泣いたところで慰めてくれる人もなく惨めな気持ちになることはプライドが許さないからだ。私は命にかかわるようなことでも平気で立ち向かえる、強い精神力があると周囲に示すことで生きるエネルギーを発生させている。冷蔵庫の中を片付けて、勤務先の薬局と購読している新聞の販売店やマンション管理人にしばらく入院することを伝えた。
病院の寒々しいベッドに入って改めて膠原病の類いについて考えた。
膠原病は自分の免疫機能の誤作動だ。それは自分が罹患するかもしれない疾患の中で唯一、容認できない疾患なのだ。
私は人間の身体の中で、免疫細胞たちの働きには一目置いていた。いや尊敬をしていた。免疫細胞たちのお陰で邪悪な病原菌が排除され、快適に生活が出来ていることに感謝をしていたし、体調に異変を感じた時は、彼らを𠮟咤激励して共に健康を勝ち取ってきたのだ。
「なのに、あんたたち免疫細胞は、いちばん親しくしてきた私に攻撃してくるってどういうこと?私に何の恨みがあるわけ?」
毎朝「今日も頑張ろうね」と可愛がってきた細胞たちは、「全身全霊で貴方をお守りします」と忠誠を誓ったふりをして、虎視眈々と私を抹殺するチャンスを狙っていたのか。尋ねたところで説明をする言語を持たない奴らは追及もされずやりたい放題だ。
自分と苦楽を共にしてきた、いちばん頼りにしている免疫細胞たちに、突然予告もなしに裏切られたのかと思うと愕然とした。
最悪の結末まで想像のできる私だけが苦しんでいるのだ。
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