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瑠実は手紙を手に、部屋着のまま敷地を突っ走って道路に出たが、早朝の住宅街は静まり返っていて、誰の気配も感じられなかった。
斜め前にあった三崎の家はもう取り壊されて、新しい家が建ち、表札も別の名前がかかっている。
かつて住んでいた家を、俊哉はどんな気持ちで見上げたかと思うと、自分にされていた仕打ちも忘れ、俊哉を哀れに思った。
手紙を読んで、あれは俊哉が衝動的に起こした罪だと分かっても、相手に抱いていた淡い憧れを踏みにじられた思いは、しこりになって消えそうもなかった。
でも、成人になった今、もし、自分に同じ事が起きたとしたら、まだ働いてもいない瑠実に何ができるだろうかと考える。あの時、たった11歳の少年に何ができたというのだろう・・・・・。
瑠実は、嗚咽が漏れて響かないように、唇をきつく噛みしめながら家に戻り、窓の下に置いてある花束を持ち上げた。すると、下に何かがあるのに気が付いた。
それは、「みどりのゆび」の本だった。
瞬間、どうしてこんなものを置いていったと不快感がこみあげたが、おかしなことにタイトルのみどりの部分が塗りつぶされて「●●●のゆび」になっているではないか。
本を手に取って表紙を開くと、封筒があり、あの時に無くなった倍の金額が入っていた。
ぺージをめくっていくと、文章中のみどりと書いてある部分が、全て塗りつぶされていることが分かり、瑠実はどうしたのだろうと首を傾げた。
そして、終わりのぺージに、ずいぶん前に書かれたのであろうと思われる、消えかけた鉛筆の走り書きを見つけて、食い入るようにその文字を目で追った。
逃げた先で書いたであろう少年の薄く消えそうな文字は、震えて歪んで、罪に押しつぶされそうな気持ちを表しているかのようだった。
読み終えた瑠実は、噛んでいた唇を解き、しゃくりあげて泣いていた。
「瑠実ちゃんは何色が好きですか?
僕は緑色が嫌いです。
きっと、瑠実ちゃんが大嫌いになった色だと思うから……」
了
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