Erased Dark Green

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 その日も学校の廊下ですれ違った時に無視をされて、瑠実は一日中不愉快になり、不注意から階段を踏み外し、落下して意識を失った。  甲高いサイレンの音と横揺れで目が覚めた瑠実は、低い天井と狭い空間を目にして、一体自分がどこにいるのか不安になった。反対方向を見ようとして、少し身を捩ると、担任の先生の心配そうな顔が覗き込んできた。  その様子で、瑠実の意識が戻ったことを確認した見知らぬ男性が、痛い箇所はないか、名前は分かるか、どうしてここにいるか分かるかなどを訊いてきたので、聞いたことのあるサイレンと照らし合わせて、その人が救急隊員で、自分が今救急車の中にいることが分かり、瑠実は驚いた。  まだ、ぼーっとする頭を働かせ、階段から落ちたのを思い出したこと、名前も小川瑠実だと間違わずに答えると、救急隊員は手元の紙に書き留めている。  ほどなく着いた病院で検査を受け、骨盤にひびが入っていることが分かり、瑠実は2週間ほど入院することになった。  入院して初めて、瑠実は動けないのがどんなに苦痛かを知った。同じ体勢でいると背中の血流が悪くなり、背中が固まってしまうように感じて苦しくなる。寝返りを打ちたいと言っても、看護師さんに我慢してねと言われて、背中とベッドの間に手を差し込まれマッサージを受けたりした。  こんな時にスマホがあればいいのだけれど、瑠実の両親は子供が高学年になるまでスマホは与えない主義だったので、瑠実は本や雑誌を読んだり、テレビを見たりして時間を潰した。  授業後や休日は、同級生が大勢やって来て、お見舞いに雑誌などを持って来てくれることもあり、瑠実はその優しさにとても感謝した。  だが、一人になってから袋の中身を見ると、何冊も同じものがかぶっているのを発見し、途端に病院を抜け出して早く家に帰りたくなることが何度もあった。  今日は何もやることがなくなってしまい、ベッドの上でぼんやりとしていたら、知らないうちに眠りへと引き込まれていた。
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