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深い深い森の奥。鬱蒼とした木々の間を抜けると、その先にはまるで現実世界とは思えない幻想的な風景が広がっていた。
高く茂る木々が壁となって守っていたのは、広く円形に開けた広場のような場所。真ん中には大きな泉がこんこんと湧き出ている。その周りには、未だかつて見たことのない美しい草花が咲き乱れていて、風が吹くと、来た者を歓迎するようにさわさわと優しく揺れている。先程通った森の中で感じた、暗く陰鬱とした空気は跡形もなく、清々しくどこか神聖な空気が満ちていた。
そこはいわば、神々の住む天上界のようだった。もっとも、実際に見たことはないため、想像上の話ではあるが。
その広場には一人の男と一人の女がいた。クッションの役目をこなす柔らかな草の上に腰を下ろし、周りを囲む木々の一つに背中を預け、静かに会話を繰り広げている。
木々の間からちらちらと降り注ぐ月光に照らし出された女の顔は、酷く美しかった。すっきりと通った鼻筋と男を誘うような艶やかな唇。やや尖った輪郭と瞳の冷たさが、上品な美しさの中で、張りつめたような鋭さを感じさせる。
しかしながら、今このときばかりはその鋭利さは消え失せ、かわりに、男をみつめる女のスカイブルーの大きな瞳は楽しげに細められ、口元にはゆったりとした微笑みが浮かんでいた。
「ねえ、ラフ。月って、少し怖いと思わない?」
「何故。僕は美しいと思うけれど。ほら、今夜は特に綺麗な満月じゃないか。」
「そうね。確かに美しいとは思うわね。綺麗にまんまるだわ。」
「そうだろ。月の何が怖いんだい。」
「……。ううん、やっぱり、怖くないわ。気のせいね。」
しん、と一瞬の沈黙。その後、深く息を吐きながら囁くように言った。
「いつも言っているけれど、あたしのこと、好きになっちゃだめよ。」
「分かっているよ、フォンティーナ。」
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