16人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄さん、久しぶりですね」
ナイト。
そう呼ばれている、マンティスの幹部である幹人が言った。
彼の周りが透き通った水のヴェールで包まれた。そう思った瞬間、その水が獅子の形に具象化され、襲いかかってきた。
「焦りすぎだろ。世間話する時間ぐらいくれよ」
蒼生の横を影がすり抜ける。影は瞬きする間に水の獅子を覆い尽くした。その影の正体は、黒い炎。リュウのSPだ。
リュウの両眼は銀色に輝いている。
黒炎は獅子を呑みこんだかと思うとあっという間に蒸発させ、さらに勢いを増しながら
マンティスの幹部四人に襲いかかる。四人は炎に包まれた。人が焦げる匂いがする。そのはずだった。だが、しない。
その理由はマンティスに相対しているバタフライの幹部である蒼生達にはわかっていた。
ルーク、名嘉がシールドを張ったのだ。リュウもこの程度で倒せる相手ではないとわかっていたのだろう。涼しい顔をしている。お互い挨拶代わりというわけだ。
「この世は不平等だよ。その不平等さを消してしまおうとは思わないか、蒼生」
クイーンが呟き、場が静まった。フードを被り、顔の見えないクイーンの、けれど悲哀に満ちたその声を聞くと、蒼生はなぜか胸が締め付けられた。
「思わない」
必死に声を振り絞り、それだけ言った。他にも言いたいことはあるはずなのに、クイーンを見ていると言葉が何も出てこない。
「わかり合えないこの世の中を、変える」
クイーンが姿を消す。残った三人が笑みを浮かべながらSPを高める。
「俺は、わかり合える努力を諦めたくない」
笙悟、リュウ、彩香が三人に向かって宙を飛んだ。
リュウの炎に、幹人の水が迎え撃つ。始めは互角のように見えたが、次第にリュウの炎が幹人の力を上回っていった。水の壁を少しずつ押している。そう見えた。
「あーあ、隠してたんですけどね。僕の力が水だけだって思ってもらえるように」
幹人の無邪気な笑顔が靄に隠れていく。気付いた時には遅かった。蒼生達は一寸先も見えない濃霧の中にいた。
「なるほどな。あいつのSPは水じゃなく、水の三態だったわけか」
笙悟が冷静に分析する声がどこからか聞こえる。蒼生は三百六十度見回してみたが、何も見えなかった。誰がどこにいるのか、全く把握できない。
最初のコメントを投稿しよう!