第二章「White Eyes」

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第二章「White Eyes」

「蒼生、起きたか」  目を開け、視線だけで周囲を見渡す。天井の隅にかかったクモの巣。湿った黴の匂い。疲弊し切った仲間の顔。これは現在だ。ここは一時的に宿にしているどこかのビル。ゆっくりと意識を現実へと引き戻す。長い夢を見ていたようだ。 「三日間寝てたんだぞ。さすがに心配した」  隣で腰を下ろし、顔を覗きこみながら笙悟が本当に心配そうに言った。珍しくて、笑ってしまった。笙悟に睨まれ、蒼生は肩をすくめる。 「子供達は?」 「無事だよ。保護して政府に引き渡した。無能な奴らでも子供二人守ることぐらいはやるだろう」  蒼生は安堵して肩の力を抜いた。 「幹人の夢を見てたよ。スクールの頃のだ。懐かしいな」  あれから一年半が経った。あの頃の面影など全くなくなるほど、世界は大きく荒廃している。  窓の外を眺めると、高いガラス張りのビルの大群でできていた街が、ただの廃墟と瓦礫の山になっている様がよくわかった。木々は枯れ、人の姿も全くない。他国に避難できるほどの財力がない者達は皆地中に隠れているか、山奥に避難している。  幹人がスクールを去ってから数カ月したある日、国中の電波がある団体によって乗っ取られた。マンティス。テレビ画面に映った四人はそう名乗った。純白の軍服を身に纏い、真っ白なコートに付いているフードを被っているため、その時顔はわからなかった。 「超能力による覚醒と粛清を行う」  自らをクイーンと称す女がそう言うと同時に、映像が切り替わる。各地で空に浮かぶ人影が現れた。もちろんそれらが能力者であるのは、同じ能力者の蒼生達には見て取れた。    能力者の存在を知らない色なし達は映画の撮影か何かだと思ったのだろう。空中に浮かぶ人間を見て面白がっている者が大半だった。携帯で写真を撮っている者もいた。  そうではない蒼生達は危険を察知していたが、どうすることもできなかった。 「仲間は歓迎する。そうでないものは死んでもらう」  クイーンの言葉が合図となり、世界が光で包まれた。  画面越しですら眼球を貫いてしまいそうな激しい光が見ている者を襲った。原爆や光熱などの能力だったのだろう。それほど強い力ではなかったが、色なし達を殺すには十分な力だった。  咄嗟に身を守るためにSPを使った能力者は助かったが、間に合わなかった者、身を守る能力のない大勢が、その時死んだ。  首都を中心に、全国の大都市が死体で覆い尽くされている映像が流れる。まるで大昔の無音映画のように現実味がなかったが、やがて地上の静けさを感じ取るとじわじわと恐怖が忍び寄ってきた。  粛清。  クイーンの言葉が反芻される。 「SPの発展に幸あれ」  そこで映像は切れた。そしてそこからが、壮絶な戦いの始まりだった。
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