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螢と君と、おはようと。
「見てよベティ!ついに新刊出たんだよ!」
ぴょこん、と可愛らしい触覚を揺らして彼、コロネは言った。
「“ひだまりの騎士”の第五巻!良かった、僕これの続き読めないまま終わっちゃかと思ったー!!」
「良かったじゃないか、コロネ。寿命が来る前に続きが読めて」
「ほんとにね!」
目の前の彼は、私とは明らかに容姿が違う。二本のふわふわとした毛のついた触覚を生やし、大きな丸い眼を持ち、背中には蝶々のように鮮やかな虹色の羽根が生えている。人間のような、虫のような、不思議な姿を持った生き物。しかし、コロネの容姿はこの惑星では極めて普通のことである。
彼らにとって、異星人と呼ばれるべきは私の方だった。故郷を他の惑星の侵略戦争で失い、命からがら逃げ出してこの惑星に辿りついた亡国の民。そんな私を、快く受け入れてくれたのがこの惑星・グリーンデイズの住人達だった。何でも、大昔に猿と蝶々の遺伝子が混じり合い、結果今の蝶々人間のような彼らの先祖が生まれたのだという。
コロネ達はそれぞれが大木の上にコロニーを作り、大自然と共存とて生きている。電子機器のような高い文明は持ち合わせていないが、極めて高い知能と私よりも遥かに高い身体能力を誇っていた。その代償として、少々その生殖形態は独特すぎるほど独特なものであったが。
「ひだまりの騎士の作者、一週間前くらいに代替わりしちゃったって言ったからさ。続きは当面出ないんじゃないかって心配していたんだよね」
分厚い本を抱きしめて、鮮やかな羽根をパタパタさせながら喜ぶコロネ。
「僕らって、すぐ一週間から一ヶ月くらいで寿命が来ちゃうからさ。一代で一冊の長編を書き上げるっていうのが、とっても難しいんだよね。ひだまりの騎士なんて大長編だもの、今回の代でも三代目の作者だし。前の記憶も多少程度にしか引き継げないから、代替わりするごとにストーリーも変わってっちゃうしねー。場合によっては、小説書いてたことも忘れちゃって、続きが永遠にでなくなちゃったケースもあるもんだから」
「それだと、お前達の情報の引き継ぎというのは本当に大変だな。仲間内で、全員の寿命のタイミングを共有しているにしても」
「しょうがないよ、僕ら何万年もそうやって生きてきたんだもの。それに今は昔と違って紙もペンもあるから、全然楽。文章にして記録して残しておけば、次の代の自分が見てもちゃんといろいろなことがわかるようになってるからね」
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