手紙

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「結衣、お母さんの形見やし、それ、持ってくまっし」 祖母がそう言ったのは大きな鏡台だった。 母が嫁ぐ時に持ってきた鏡台は主人を亡くした今でも綺麗なままだ。母の実家が娘が恥をかかないようにと持たせた一流家具メーカーの物で、高い物は良いのだと私に教えてくれた家具でもある。 「アパート狭いからいいよ」 私は遠慮がちに首をふった。 私は来週からこの家を出て、夫となる人と同居をする。 今はその引越しの準備をしている。 「そうやけど、せっかくお母さんが持ってきてんし…」 亡き母の部屋で祖母と2人、鏡台の方に視線を移した。 母が使っていたこの部屋は絨毯は色褪せ、鏡台しか母の物は残っておらず、母が居なくなってからの年月だけが感じられる。 「うん…」 私は鏡に映る自分を見ながら返事をした。 嫁いで7年目で亡くなった母が使っていた鏡台。 兄は要らないだろうし、使ってあげられるとしたら私くらいだろう…。 「もし家を建てたらもらってくわ」 祖母に視線をズラす。
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