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プロローグ
たぷん、たぷん……。
波の中で揺蕩う、ガラスの瓶。
水面には月からやってきた一筋の光が伸びていた。そのささやかな光の中で、ガラス瓶は小さく上下しながら揺れる。
15歳のアベルが遠くにそれを見つけたのは、真夜中だった。勤め先の酒場でボトルを割ってしまい、逆上した店主から殴られて海辺に逃げてきたのだ。
潮風がアベルの髪を梳いて、南に靡かせる。
生温かい夜だった。
アベルはガラスの瓶に目の焦点を合わせたまま、引き寄せられるように冷たく暗い海に入った。
視線をずっと逸らすことなく、平泳ぎでぐんぐん進む。荒い呼吸をする口に入る波の噎せるような塩味。
なぜたかが海に浮かぶゴミを拾おうと思ったのか、自分でも解らなかった。あたかもガラス瓶が強い引力を持ってアベルを手繰り寄せているかのようだ。
遂に瓶を掴んだ時の狂気と達成感。中にはどうやら紙が入っている。それがアベルを惹きつけていた。
「ハッ……」
振り返った瞬間、我にかえった。
ようやく瓶を手にしたその時には、思いがけず沖に近くなっていた。
ーー流される。
潮の流れはアベルの必死を嘲笑うかのよう。
暗い海に引き込まれていく。
ーー助けて!
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