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孤独の中の友達
「アベル!」
金切り声にハッと目を覚ますと、日は既に高く昇っていた。
「やばい」
粗末なベッドから飛び起きると、アベルは天然パーマの髪を爆発させたまま布靴に足を突っ込み、慌てて階下に降りた。
海辺の町。通りは普段と変わらず、大声で話す人々で賑やかだ。魚市場には生臭さが残るだけ。朝早くに来なければ、すぐに売り切れてしまう。
魚を諦めたアベルは野菜市場の人ごみをすり抜けながら、養母に言いつけられたものを買っていく。
昼からは働きに出かけ、1日が終わるのは酒場でのアルバイト後の深夜2時。
ベッドに倒れ込み、窓辺の青みがかったガラス瓶を見つめて穏やかに微笑みながら眠りに落ちる。
それがアベルの習慣だった。
あのガラス瓶の中には、もう何度も読んでボロボロになった手紙。
ーー会いにきて。
繊細で控えめな文字。手紙の下には彼女の住所。この町からだと少し遠い郊外だ。
独りぼっちの女の子。アベルが来るのをずっとずっと待っている。これまで数ヶ月、何度かやり取りをしてきた。
文字の向こうの彼女に恋をしていた。
「もう少しで、会えるよ」
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