孤独の中の友達

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手紙の瓶を手にしたあの夜。ちょうど夜釣の漁船が出ていて、流されたアベルを救ってくれた。 運が強いヤツだ、と言われたが、アベルはなぜかこの手紙が自分を救ったのだという気がしてならなかった。 自分を呼んだのだから、必ず死なせない、と。 家と同じ通りにある二件先の酒場がアベルの勤め先。 店の床をブラシで磨いていると、入口の引き戸が開いて郵便配達夫がやってきた。 「アベル、手紙だよ」 「ありがとう!」 細身の彼から笑顔でそれを受け取る。アベルに手紙を送る相手は一人しかいない。ズボンのポケットに封筒を入れ、急いで床磨きを終わらせた。 アベルは満面の笑顔を浮かべ、慌ただしく裏手に回り、大きなゴミ箱に隠れて手紙を取り出す。驚いて逃げていったノラ猫たちが少し距離を置いて様子を窺っていた。 ーーアベル、ご機嫌よう。 いつも通りの細くて美しい字。庭のコスモスが咲いたこと、隣の家の猫が最近よく遊びに来ること。でもやはり寂しいことなどが丁寧に綴られている。 アベルは小さな溜め息を吐いてその文字に触れ、いとおしげに文面を何度も読み返した。 相手の名前はアイリス。 売られた彼女は家に閉じ込められており、いつも見張られているという。
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