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エピローグ
「全く……信じられない」
びしょ濡れのアベルは、三角の帆をぼんやり見つめながら、仰向けに倒れていた。
「上手くいったな、ザック」
そう言ったのは、ヒゲのサコーだった。
空の高いところでカモメが鳴いている。それを嬉しそうに聞きながら、ザックと呼ばれた男は顎をしゃくり上げた。遠目に見るのはさっきまでいた陸。
彼の肩には、あの色鮮やかなオウムが乗っていた。
「ほらよ、船長」
サコーから渡された黒の大きな船長帽を被るザック。でかでかと骸骨の絵が描かれていた。
「さて。お前はどうする? アベル」
ザックに問われ、アベルは眉根を寄せた。
「どうするって、この船は僕の金で買ったんだろ?」
「ちげえねえ」
サコーが頷いた。
海に飛び降りた彼らを、カッター船で助けにきたサコー。アベルの全財産でお買い上げした、その船で。
「てことは、アベルが船長か」
ザックは不愉快に鼻を鳴らす。
「そして水先案内人と俺……。俺はただの船員だと!?」
一人で怒り出すザックを横目に、アベルは溜め息をついた。
ぼんやり見つめる先は、大海原。
あんな手紙、拾わなければ……。
そう思ったものの、アベルは小さく噴き出した。
いつまで彼らと一緒にいるかは分からないが、新しい世界に飛び出せたことは事実。
何だってできるさ。
ポケットの中の、最後の『アイリス』からの手紙を取り出した。水でふやけてクタクタになったそれを、そっと水面に送り出す。
アベルを自由にした手紙は、差出人の愛する海に還っていった。
「あぁ〜、景気付けにワインが飲みてぇなあ!」
ザックが狭い船内に仰向けに転がり、大声で駄々をこねた。
〈おわり〉
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