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中秋の名月が、浴衣を着崩し、縁側に腰掛けた男を青白く照らす。
男は高杯に置かれたお猪口を手に取って、口元で傾けた。
「勝手に飲まないでください」
私が苦言を呈しても、男はお猪口の横で盛られている団子を口に放り込むだけ。
さらに持ってきたばかりの里芋まで手を出してきた。
「この衣被ぎも最高なんだよねー」
「まったく……」
男とは少し離れて腰をかけ、私も新たに用意したお猪口を傾ける。
しかし脚を撫でられるくすぐったさに思わず吹き出してしまいそうになる。
見れば、飾ってあった薄を手に、男がニヤニヤと穂先で私の脚をくすぐっている。
「そういうセクハラは止めてください。殺しますよ?」
「また殺してくれてもいいんだよ?」
「次に殺したら、もう現れませんか?」
「それは約束できない」
男が私の方に寄ってきて、血の通わぬ冷たい手で私の頬を、髪を撫でる。
「君を独りぼっちにはできないからね」
そして優しい口付けをくれる。
「君が月に帰るまで、俺はここにいるよ」
地球への未練を消して帰るはずだったのに。
だから私は、まだ月には帰れない。
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