国家一武闘会

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国家一武闘会

お城で開催される国家一武闘会。私は少女が魔法で用意してくれた鎧と剣を身につけて、初戦に挑んだ。 武道の心得がなく、初戦敗退と死亡フラグがチラチラ見え隠れしている。初戦の相手はなんと…年下の方のシンデレラの義理の姉。 「まあ、灰かぶりの下女の癖に武闘会へ来るなんて!サクッと倒してあげますわ」 二刀流の刀を持って襲いかかってくる。盾で刀をかわそうとするも、もう片方の刀が私の腹めがけて切りつけてくる。やっぱり死亡フラグ…と思ったその瞬間、観客席にいた魔法少女が、 「テクマクショタコン!」 魔法のコンパクトの鏡の反射光を義理の姉に向ける。義理の姉は急に力が抜けたようで、 「王子とかどうでもいいわー。やっぱりジーニーズよ!デビュー組よりまだ芽が出てないキッズ達よ!キッズ坦は忙しいの!」 武闘会の闘技場から走り去っていったシンデレラの年下の方の義理の姉。その手にはモールでキラキラしたうちわとペンライトが…。 「勝者、シンデレラ!」 闘技場の審判の声が響く。勝っちゃった。魔法少女のコンパクトもまあ、平和な使い方があったようね。こうして、まともに戦うこともなく、魔法少女のコンパクトと、 「テクマクショタコン!」 呪文のお陰で、順調に勝ち進んでいってしまった。 ある敗戦者は若いスケート選手の追っかけになり、ウサギのぬいぐるみをリンクに投げ込み、ウサギのぬいぐるみが凍死しそうな姿に喜びを見いだした。 別の敗戦者は、チェスの若き天才に熱を上げ、彼の出待ちをしたり、彼が食べた勝負飯のお店にご飯を食べに行くことを生きがいにし始めた。 決勝の相手はシンデレラの義理の姉、年上の方。 「私は…私は絶対にあなたなんかに負けないわ。シンデレラ、あなたの母親は身分が高く苦労知らず。その娘のあなたも生まれながらのお嬢様。でも、私たちは違うの。お母さまは身分が低いから公妾に甘んじてきた。やっとつかんだ正妻の座。後添えとはいえ、貴族の妻。それなのにお父様は死んでしまった。未亡人としてのお母さまの苦労があなたなんかにわかる?私はこの勝負に勝って王子様のお妃になって、お母さまに今度こそ楽をさせてあげるわ。」 どうしよう。意地悪だと思っていた義理の母と姉にそんな苦労があったとは…。優勝して7つのドラ猫ボールを貰わないと元の世界には帰れない。でも、私が優勝したら王子様のお妃に…。ん?待てよ。 7つのドラ猫ボールで願いを叶えて元の世界に戻ったら、私はこの世界から消えて王子様のお妃にはなれない。武闘会の趣旨を考えてみれば、準優勝の者にお妃の座が譲られるのでは? 私は、年上の方の義理の姉に向かって、 「私にも譲れないものがあるわ。全力で勝ちにいきますから」 そう答えると、試合開始の合図が審判から出た。魔法少女がいつものようにコンパクトでなんとかしてくれるはず…。 観客席の少女に目配せすると、なんと…。盛大に居眠りしてまったく試合を見ていない。オイ、嘘でしょ?決勝だよ。私は気迫みなぎる義理の姉の攻撃に防戦一方。魔法少女は夢の中。このままじゃ死ぬ。私は自棄になって、 「テクマクショタコン!」 ダメ元で、魔法のコンパクトを起動させる呪文を唱えた。 眠りこけている魔法少女のポシェットの中から、コンパクトが勝手に飛び出して、反射光が対戦相手の義理の姉に当たった。 義理の姉は突然闘技場の観客席にいた女の子が持っていた漫画を、食い入るように読み始めた。少年キャラクターに熱烈な恋をして腐る楽しみと味を覚えてしまった。沼にどっぷり浸かって、しばらく帰って来られないだろう。シンデレラの義理の姉は、腐女子デビューを果たした。 「優勝はシンデレラ!」 無事優勝者になった私は王子様の妃になるべきか、7つのドラ猫ボールで元の世界に帰るか、かなり悩んでしまった。 元の世界に帰っても平凡な人間。この世界なら一国の王子のお妃さま。迷いに迷っていると優勝賞品の授与式が始まった。 初めて顔を見た王子様は…なんとヨボヨボのおじいさんでした。 「えっ?王子様ってあれが?」 側にいる魔法少女に耳打ちすると、 「こっちの世界も高齢化なの。王様は120歳、王子様は95歳よ。私みたいな少女は貴重で人気者なのよ」 「ドラ猫ボール7つで元の世界帰るわ」 「えー、帰っても平凡な人間だよ?」 「平凡な人間の方がまし!イケメンでカッコいい王子様だと思ったらおじいさんじゃん!」 「顔や年齢より、世の中、金と地位だよ?」 魔法少女が今までにないようなゲスな顔つきでささやく。 「それでも95歳の王子様はムリっ!」 「あっそー。じゃあ、ドラ猫ボール7つで元の世界に戻るのね?」 「うん、早くして」 「ドラ猫さーん、この人を元の世界に戻して!」 魔法少女が叫ぶと、7つのボールから、どでかいドラ猫が現れて、私は眩暈とともに体が宙に浮いた。目が覚めると、いつもの自分の安アパートだった。 変な夢だったな…。あくびを1つすると、絨毯の上に、ピンクのコンパクトが転がっていた。これはあの魔法少女のコンパクト。 「テクマクショタコンか…」 私はコンパクトを手にして、ある見落としに気がついた。7つのドラ猫ボールで王子様を若返らせればよかった。そうすれば向こうの世界で、お妃さまとして左団扇で暮らせたのに。なんてもったいない。あーあ。ドラ猫ボールの使い方間違えたかも。悔やんでも、もう元の世界に戻って取り返しがつかない。 下の階の住人への迷惑も考えずに盛大に地団駄を踏んでしまった。 「ちっくしょー!王子様若返らせればよかった。あの魔法少女もドラ猫ボールの有意義な使い方教えてくれればいいのに!」 ドアポストからカタンという音がする。もしかして…。期待で胸がドキドキする。ドアポストからそっと手紙を抜き取る。また羊皮紙の封筒だ。中の便箋にはこう書かれていた。 『これであなたも白雪姫!持ち物はリンゴと招待状だけ、七人の小人が明日お迎えに上がります。今度こそ上手くやってね。by魔法少女』 私は明日に備えて24時間営業のスーパーへリンゴを買いに出掛けた。 「今度こそドラ猫ボール7つで王子様を若返らせようっと。今度こそ玉の輿よ」 足取りは軽く、鼻歌まじりに夜道を歩いた。白雪姫になれる明日を楽しみにして。
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