woman 十三夜

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出逢うという言葉がふさわしいのかどうかは置いておいて、彼に出逢ったのは一年前、聴きたい曲を探して動画サイトをサーフィンしていたとき。 聴きたい曲のイメージに合うカヴァーを探していた。そこで偶然見つけた美しい声に瞬間で心を奪われた。 どうしても綴れなかった主人公が恋に落ちるシーンを求めて、ベランダで三日月を見つめていたとき。柔らかな月の光を音にしたような澄んだリリクテノールに自らが恋に落ちた。 ときめきながら戸惑う、そんな自分を照らす月の光。淡く切ない月の姿と、イヤフォン越しに鼓膜を震わせる切なげな奏。 囁くような歌声の中で、主人公の彼女はナチュラルに初恋に落ちる。 ロマンチックなシーンを作り上げたあとも、歌声は続き、次のシーンと次の彼女の夢が心の中で育っていく。トクトクという自分の心臓の音に昨日とは違う今日になると感じていた。 もっとたくさんの彼の歌が聴きたい。切なさの糸で編み込んだような甘い声で奏でられる世界に触れたい。 出逢うという言葉がふさわしいのかどうかはわからないけれど、私は彼の声と人生を変えるほどの大好きな歌のカヴァーに出逢った。 なぜまた書き始めたのだろう。 筆を折って久しい。目の前の仕事の多忙にもう諦めていた。 学生の頃目指した小説家という夢はとうの昔に頓挫したはず。でも時折、書きたい衝動に潰されそうになりながら何度もキーボードを叩いた。 月明かりのベランダでキーボードを叩く。 仕事のストレスを書くことで晴らす。周りにはそんな意見も少なくない。そこから賞をとってプロになった者もいる。 プロ・・憧れる言葉だが、今はとにかく書きたい、それだけだった。 またスマホが震える。音楽を止めて開くと、月光を浴びるジャスミンの写真。 小さく写った月のカタチに思う。 同じ月を見ている。 控えて叩くキーボードの音が、闇の中に溶けていく。 同じ月の中で、同じ音楽を聴きながら、私はキーボードを打ち、彼は本を読んでいる。 十三夜。 午前3時。 そろそろおしまい。
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