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一方、沙葉は、今は都内で母親と二人で暮らしているが、実は5年前までは和歌山県に住んでいた。
家ではバリバリ関西弁を話す関西人だった。
職業柄、家以外では完璧な標準語で話をしている為、まだ誰にもバレたことがなかった。
だが坂井の突然の告白により、沙葉は坂井の前では関西弁を封印しないといけなくなってしまった。
(大丈夫かな、私……)
二人は水族館を後にし、予約しているレストランへ向かった。
いつもは話が弾む二人だったが、あの告白以降沈黙が続いていた。
いつもより時間が過ぎるのが遅く感じると同時に、空気もいつもより重く感じた。
「素敵なレストランね」
「うん」
店の奥からは、生演奏のピアノの音が聞こえてくる。
二人は窓際の席に座り、料理を待つ間、夜景を眺めていた。
男のウェイターがきて、前菜をテーブルの上に置き、
「ここの眺め、最高なんですよ」
にっこり笑顔で微笑んだ。
ウェイターの顔が沙葉を見て変化した。
「あれ?もしかして、もっち?俺、隆司。中村隆司」
(あぁ、高校の同級生の中村君か)
「こっちに来てたんや」
(え?中村君?急に関西弁?何故?)
沙葉は空いた口を慌てて閉じた。
「こっちに?ん?関西弁?」
坂井は不思議な顔をして、沙葉を見た。
「沙葉、もしかして……」
(ヤバイ……)
沙葉は慌てて側にあった水の入ったグラスを倒した。
「うわぁ、ごめんなさい」
「大丈夫か?」
慌ててペーパーで坂井が拭いてくれている隙を見て、中村の腕を掴んでその場を離れた。
「私、拭くもの借りてきます」
坂井が見えなくなる所までいくと沙葉は中村に頭を下げた。
「彼には関西出身って言ってないの。ちょっと事情があって。だから、同級生は誤解だったってことにして貰えない?」
「そっか、ごめんな。俺、悪いこといっちゃったな。分かった。後で誤解だったって言うから。それより、服濡れてない?大丈夫?」
「ありがとう、大丈夫。変なお願いしちゃって本当にごめんね」
「いいよ、拭くもの持って行くから、先に戻って」
「うん、ありがとう」
沙葉は中村に手を振ると、坂井のテーブルに向かった。
「沙葉、大丈夫?服、濡れてない?」
坂井は心配そうな顔をして、沙葉の袖口を掴んだ。
「うん、大丈夫。ありがとう。それより、ごめんね。ドジしちゃって」
「いいよ。沙葉が大丈夫なら」
「知典、優しいね」
沙葉はにっこり微笑んで、坂井の手を握った。
「さぁ、食べましょう」
「そうだな」
二人は軽やかなピアノの音を聞きながら食事に戻った。
(今回はなんとかなったけど、これから先が思いやられる)
その後、中村がメイン料理を運んできた際に誤解だったことを二人に告げたことで、今回は何とかことは収まった。
二人にとって、この結果ぎ良かったかどうかは定かではない。
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