箱 ――はがき――

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 何で今ごろ……  深いため息とともに、俺は呻いた。  手の中の、古い木彫りの文箱。  つややかなチョコレート色の蓋には、大輪の椿が彫り込まれている。  十三年前に死んだオフクロが好きそうな、派手な箱だ。  オフクロが遺したその文箱の中には、何十通もの封書が眠っていた。    手紙だ。  封書はすべてオフクロ宛てのものだが、その中に一通だけ、絵はがきが紛れ込んでいた。  ……俺宛てのはがき。  日付は、今から二十年以上も前。  大学を卒業した次の年だ。  差出人は……、いや、見なくても分かる。  彼女だ。  はがきを手に取らないままに、俺は朧に霞んだその日の記憶を呼び起こした。
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