34人が本棚に入れています
本棚に追加
何で今ごろ……
深いため息とともに、俺は呻いた。
手の中の、古い木彫りの文箱。
つややかなチョコレート色の蓋には、大輪の椿が彫り込まれている。
十三年前に死んだオフクロが好きそうな、派手な箱だ。
オフクロが遺したその文箱の中には、何十通もの封書が眠っていた。
手紙だ。
封書はすべてオフクロ宛てのものだが、その中に一通だけ、絵はがきが紛れ込んでいた。
……俺宛てのはがき。
日付は、今から二十年以上も前。
大学を卒業した次の年だ。
差出人は……、いや、見なくても分かる。
彼女だ。
はがきを手に取らないままに、俺は朧に霞んだその日の記憶を呼び起こした。
最初のコメントを投稿しよう!