箱 ――はがき――

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 ――大学四年の冬。  独り暮らしの俺は、ずっと好意を持ってきた彼女をアパートに誘った。  それまでにも一回か二回、彼女は俺の部屋へ本を借りに来たことがあった。  が、そこはやはり友達どまり。色事などあるワケもない。  そんな悶々とした状況を学生生活最後の冬に打破したい!  と、最後のレポート作成にかこつけて、俺は彼女を部屋に呼び込んだのだった。  平然と上がり込んできた彼女と一緒にレポートを書き、俺の手料理をご馳走し、そして彼女を抱きしめて告白した。  好きだ! 付き合ってくれ! と。  ところが彼女の返事は、YesでもNoでもなかった。 「うーん、混乱してるから……」  という、何だかよくわからない返事。  いや、彼女がいわゆる『不思議ちゃん』なのは、よく分かっていた。  彼女の母親が風呂敷から作った唐草模様のワンピースをゼミに着てくるくらい、何かが違っていた。  それでも、いや、それだからこそ、俺は彼女がよかったのだ。  結局、押していいのか退くのがいいのか、まったく分からない俺を置き去りにして、彼女は帰っていった。  しかしそれ以降も、彼女の付き合い方は何も変わらなかった。    相変わらず俺の部屋に本を借りに来たり、ゼミ帰りにお茶したり……。  普段どおりにふるまいつつ、やっぱり退いてていいのか押すべきなのか、見当もつかないまま、やがて俺たちは大学を卒業した。  俺は生まれ育った実家へ戻り、地元で就職。  一方で彼女はアメリカへ渡った、と風の噂に洩れ聞いた。
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