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それから、一年とちょっと。
ある夕方、会社から帰宅した俺に、オフクロが素っ気なくこう言った。
「はがきが来てるわよ。女の子から」
誰なのか、思わずオフクロに聞き返した。
女の子からはがきが届くなど、まったく心当たりがなかったからだ。
だが、オフクロが告げた差出人の名前が、俺の脳天を直撃した。
彼女だ。
それまであまりの忙しさに、彼女のことを思い出すこともなくなっていた。
それなのに、彼女の名前を聞いただけで、一気に彼女との何気ない思い出が、どこからか噴出してくるから不思議だ。
「はがきは靴箱の上にあるから……」
俺は、いつも郵便物が投げ出される靴箱の上を探してみた。
普段なら、手紙や伝票は、しかめつらで立ち尽くす怪しい木彫りの足もとに投げ出してある。
が、いくら探してもそれらしいものはなかった。
問いただしたオフクロからの答えは、こうだった。
「お父さんが捨てちゃったかもね。さっき靴箱の上を片付けてたから」
憤然とオヤジを問い詰めたものの、オヤジは知らないの一点張り。
結局、彼女が俺に何を書いてきたのか分からないまま、時は過ぎ去った――
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