34人が本棚に入れています
本棚に追加
オフクロの十三回忌を終えた夕方。
押入れの奥から出てきた、未整理の遺品。
そのうちの一つが、この椿の文箱だ。
――はがきは捨てられた――
あの時、オフクロは確かにそう言った。
だが、その捨てられたはずのはがきは、文箱の中で深い眠りについていた。
オフクロ宛ての手紙と一緒だったところを見ると、このはがきを文箱にしまい込んだのは、たぶんオフクロに間違いない。
どうしてオフクロは、このはがきをこっそりと隠したのか?
さらには『捨てられた』などとウソをついたのか?
そして何故、このはがきのことを俺に教えたのか……?
……その答えは、はがきの中にあるのかもしれない。
俺は両手で持った箱の中へと視線を落とした。
箱の中に見える絵はがきの摩天楼は、二十年の時を背負い、斜陽よりも濃いセピア色に染まっている。
俺は目を閉じた。
……もし、もしもだが、あの時、はがきを読んでいたら、俺はどうなっていただろう?
彼女と再会して、恋人同士になっていただろうか?
そして、今とは別の土地で、彼女と家庭を築いていたかも知れない。
胸の奥底に、ふと濃く澱んだ影が差す。
……今からでも、連絡は取れるかも知れない。
俺は、文箱のはがきに震える手を延ばした。
最初のコメントを投稿しよう!