箱 ――はがき――

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 オフクロの十三回忌を終えた夕方。    押入れの奥から出てきた、未整理の遺品。  そのうちの一つが、この椿の文箱だ。  ――はがきは捨てられた――  あの時、オフクロは確かにそう言った。  だが、その捨てられたはずのはがきは、文箱の中で深い眠りについていた。  オフクロ宛ての手紙と一緒だったところを見ると、このはがきを文箱にしまい込んだのは、たぶんオフクロに間違いない。  どうしてオフクロは、このはがきをこっそりと隠したのか?   さらには『捨てられた』などとウソをついたのか?  そして何故、このはがきのことを俺に教えたのか……?   ……その答えは、はがきの中にあるのかもしれない。  俺は両手で持った箱の中へと視線を落とした。  箱の中に見える絵はがきの摩天楼は、二十年の時を背負い、斜陽よりも濃いセピア色に染まっている。  俺は目を閉じた。  ……もし、もしもだが、あの時、はがきを読んでいたら、俺はどうなっていただろう?  彼女と再会して、恋人同士になっていただろうか?  そして、今とは別の土地で、彼女と家庭を築いていたかも知れない。  胸の奥底に、ふと濃く澱んだ影が差す。    ……今からでも、連絡は取れるかも知れない。  俺は、文箱のはがきに震える手を延ばした。
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