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その時、背中から無邪気な声が聞こえてきた。
「何してるの? パパ」
振り向くと、男の子が立っていた。
五才になったばかりの長男だ。
くりっとした大きな目は、この子の母親つまり俺の妻によく似ている。
「パパ、だいじょうぶ?」
ビー玉のように曇りのない瞳と、心配を隠そうともしない純粋な口ぶり。
俺は目を伏せた。
……もし、もしも俺があのはがきを読んで、彼女と家庭を持っていたら、この子はここにはいなかっただろう。
そうだ。
もうこのはがきは、俺にとっては何の意味もない。
いや、下手をすれば害にしかならないだろう。
オフクロがはがきの存在を俺に教えた理由も、そのはがきを隠したワケも、それにはがきに書かれた彼女の言葉も、すべては謎のまま葬られるのが、一番いいのかも知れない。
はがきに指一本触れないまま、俺は文箱の蓋を閉じた。
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