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「そのはこ、なあに?」
純朴に問う長男に、俺はこう答えた。
――おばあちゃんが、昔お化けを隠していた箱なんだ。コワいんだぞう――
「ええ? お化けヤダ! お化けハンタイ!」
おびえた顔で半泣きの声を上げた息子。
俺は苦笑を洩らしながら、文箱を押入れの奥深くに戻した。
忘れっぽい俺のことだ。
たぶん三週間もすれば、この文箱のことも、中で眠るはがきのことも、綺麗に記憶から消えてしまうだろう。
押入れの襖を閉じ、俺は息子の髪にくしゃくしゃと手櫛を通した。
そして短く誘う。
今日はまだ暑いから、アイスクリームでも食べに行こう、と。
息子が白い歯を見せてにっこりと笑った。
丈夫そうな歯がまぶしい口元は、オフクロに似ている気がした。
――了――
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