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古いマンションの一室。
玄関のドアを開け、外に出た途端。
廊下部分に倒れているヤツを見つけた。
その姿はもう天に召されたようにも見える。
「ギャギャギャギャギャ」
「キャー! セミファイナル!」
仰向けに転がっているヤツに指先を近づけた途端、転げ回って奇声を上げた。
通称・セミファイナル。
落ちているセミが死んでるのかと思うと、突然動き出してビビらされる。
足を閉じてるヤツは死んでてデッド、開いてるヤツはまだ生きてるのでアライブです。
8月。都心の炎天下。
「ほら」
人差し指を差し出し、しがみついてきたセミを4階の廊下から空へと放り投げる。
真夏の日差しが照りつける中。
---その姿は、光の中へ消えていなくなった。
最期であろうフライトを見送りながら叫ぶ。
「短い人生、精一杯生きようね〜!」
---誰かに見られている気配がした。
振り向くと、斜め向かいの女性がこちらを凝視してドアを閉めてしまう。
「……思いっきり不審者だ」
確か母子家庭が住んでたと思う。
部屋に戻ると、正午でテレビがニュースに切り替わったところだった。
「豊島区内で出没している、女性に声をかける不審者についてですが。つば付きの帽子を被った男が目撃されており」
こ、こわ。狙われないよね、年齢的に。
「でも20代後半で無職じゃな。見下されるのは仕方ないか」
ハロワいこーっと。
自嘲気味に呟くと、午後はお馴染みの池袋ハローワークに行くことにした。
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