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月齢14.8
「おーい。透」
「何だよ、和幸」
「寒いんですけどー。学校の屋上」
「まあ、10月だからな」
「これ来月もだろ?毎回月見て何が楽しいの?」
「これから寒くなって、空気が澄んでくるともっときれいだぞ」
「違くてですね部長様」
和幸が透をつつく。
「どうしましたか副部長様」
何事も無いように透が返す。
「ほら!そのあと続かねーよ。部員いないじゃないか」
「まあ、そうだな」
「顧問の杉ちゃんにも言われただろ、3人以上いないと同好会降格だって。予算下りないぜ」
「んー。自分の機材使っているし、そんなに困らないと思うんだよな」
気にしているようでもなく透が言う。
「ちーがーうーだーろー!この月明かりの下で部員の女の子と一緒に望遠鏡覗いて、ほら、きれいな星だね。だけど君の方が輝いているよ。とかさー」
「今日さ月齢14.8で満月だから、かなり星見づらいよ。レンズ変えれば月のクレーターは見えるけど。新月の時に口説かないと」
「もうその冷静さ、ムカつく!」
「じゃあ休もうか」
透が和幸に飲み物を渡す。
「あ、あったけ」
「さっき買っておいたからね」
「なあ、どうしてお前って月なのさ。星の名前たくさん知っていた方がモテそうじゃね?」
「ははっ。和幸と違ってモテる気はないよ」
「なんだとー」
「星は名前が一つだろ?ベガやアルタイル・・もちろん夏の大三角があったり占いに使われたりはしているけれど」
「でも月はたくさん名前を持っているんだ」
「たくさん?」
「そう。月という固有名詞はあるけれど、今夜みたいに満月。反対の新月。
三日月くらいはお前も知っているだろ?あと夜が明けて陽が登ってもうっすら残る有明月。きりがないよ」
「魅了されるんだ・・・」
ポツリと透がつぶやく。
「さて」
飲み物を置き、透は望遠鏡のそばでわざと月に背を向けて立ち、和幸からは表情がわからない。
「なあ現国36点」
「俺はそんな名前じゃねえ」
「勉強を見てあげてその点だった時僕も傷ついたけどね」
「月がきれいですね。って言ってみなよ?今日はなかなかいい月だろう」
「はあ?なんでわざわざ」
「はい。りぴーとあふたーみー」
「月がきれいですね・・・?」
笑顔の透がふり返る。
「月はずっときれいでしたよ?」
「そんなのわかっているよ」
「和幸はさー、本当にもう少し勉強した方がいいよ」
あきれながらも笑顔の透が言う。
「何だよいきなり」
「本を読めって事さ。特に純文学」
「あ、無理。俺、漢字無理」
「・・・次は赤点かなあ」
透は少し諦め顔だ。
「ほら和幸来いよ」
「本当に月がきれいだからさ」
「んー」
和幸は重そうに腰を上げ、透と天体望遠鏡の方に歩いていった。
瞳の奥に満月と和幸を映しこみながら透は長いまつげを閉じていった。
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