その1

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その1

最近、友達の#小池琢磨__こいけたくま__#から小説を借りる事になった。 タイトルは、 「いきなり魔王に転生…(略)…」 「僕ら転生冒険者でしかも…(略)…」 「悪役令嬢婚約破棄して…(略)…」 「婚約破棄した令嬢が…(略)…」 今、流行りだという事で、読むようにという事だった。 今日から、高校生になって、最初の夏休みだ。学校という牢獄から解放され、自由な時間。 この夏休み、暇も多いだろうし、友達の熱いお勧めの本だ、読んでみるか、という事で、さっそく読み始めた。 その前に、丸テーブルの上にあるオレンジジュースを一口。ごくん、おいしい。 現代の生活から抜け出し、幻想世界へ、生まれ変わる…? 転生、か。 そうしたら、魔王になっていた、か。 まぁ、いいだろう。 あまり毒のない魔王…になりそうだな。 恋愛も絡むんだな…。 苦労もありそうだが、楽しそうだな。魔王か。 でも、俺は人生をやり直すのなら、そうだなぁ、幻想世界でなら… 「勇者よ、起きてください…」 体を揺さぶられ、意識を朦朧とさせながらも、俺は何とか返事をした。 「勇者よ、ついに旅立ちの時が来ましたぞ?」 俺は気の抜けた声を出し、話しかけた男の方に目を向ける。目が霞むな。 まだ起きたばかりなのか、体がフラフラする。 しかしこいつ、背が高いな、高層ビルを見上げる感じになっているけど、大丈夫か? あぁ、足がしっかり立ってくれない。何か自分の足じゃないみたいだ。 しかし、俺の足小さくないか?これが高校生の足かっていうくらいに。 赤ちゃんみたいだな。 「勇者よ、これが剣と鎧です。さぁ、身につけて下され」 神父みたいな格好したおじいさんに言われた。首にロザリオしてる。 ところで、勇者って、俺の事か?この神父みたいなおじいさん、年季の入った顔をしているが、中々精神病院お手上げの、厳しい発想をお持ちの様だな。 「お前、誰でちゅか…?」 あれ、俺の声が変だ。 「ばぶばぶ…」 あ、この言葉は、わざと言いました、ごめんなさい。 しかし、ばぶばぶは、言いやすかった。いや、何が言いやすかっただ。高校生が、社会と一撃で隔離される様なきついコメントを思い浮かべては、まずい。 「鏡を…」 何とか、言えた。 「どうぞ、勇者よ」 神父らしき、おじいさんは、手鏡を持って来てくれた。 「うーん…。ありがちょ」 自分の顔を見て、絶望した。不細工だからじゃない。不細工と、思った事はない。顔が、赤ちゃんみたいだからだ。 「2、3才くらいでちゅ…」 そう、あまりの絶望に、俺は溜め息を漏らしながら、言った。 何でこんな事になった? 何故… あ!これは、夢なんだな。 借りた小説を読んでいたせいで、こんな夢を見ているんだ。 よし、もう一度、寝る事にしよう。 しかし、夢とはいえ、このキチガイ神父も、2、3才の幼児に、剣と鎧身につけ、旅立てとか、よく言えたものだ。 お前が、あの世に旅立て。
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