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月表面には、強力な紫外線が降り注ぎ、激しい温度変化があり、生物が生きるには不適当な環境だと言われている。
それは事実だ。
月が玉兎と呼ばれるその理由は、ただの伝説なのだ。
僕を含め、うさぎを愛する人々が、愛兎の死を「月へ行った」と表現するのは、せめてもの心の慰めにすぎない。
けれど、月にはたくさんのうさぎが住んでいて、別れなければならなかった飼い主のことを想って、皆、地球を眺めているのだと……懐かしく想って暮らしているのだと……そんなロマンチックな夢を、僕は見ていたいんだ。
――月に、うさぎはいない。
それは、覆すことのできない真実なのだと、それもまた、僕は理解をしている。
けれど、「会いに来てね」といった彼女との約束を守り、僕は美月を探しに宙へ向かう。
――例えそこに彼女がいなかったとしても。
だた荒廃した月面が、広がっているだけだったとしても。
ロケット打ち上げのカウントダウンが始まる。
ナンバーが減っていくたび、僕の心臓がドクンドクンと音をたてる。
不安と期待を胸に、僕は旅立つ。
夢にまで見た、あの月へと――。
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