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宅急便の配達員の青年は、あたしを見るなり真っ赤になってウッと心臓を押さえたので変だなぁと思った。
ローソンのレジの前に向うと、顔なじみのベトナム人留学生の店員のロンさんに付き合ってくださいと迫られて、さすがに妙だと気付き、帰宅してすぐにママに問い詰めたところ白状したのである。
「媚薬の効果が出たのね。アイドル並みにモテているみたいね」
モテているというよりもゾンビに追われている感覚に近かった。あちこちから異性の視線が絡みついてきて落ち着かない。こんなの少しも嬉しくない。
何日、この薬が持つのか確認したいので大徳寺家の三兄弟のもとに行ってくれと言われて面食らったというのにママはノリノリだった。
「会長は、あなたの飛行機のチケットやクルーザーの手配をして下さっているのよ。あっ、彼等には媚薬のことは内緒よ。気を使って効いたフリをされても困るもの」
「やだな。人体実験なんておかしいよ」
「何を言うの! 妻と母親に麻酔を試した江戸時代の医師もいたのよ。気球に乗ってどこまで登れるのか試して失神した人もいるわ。死んだ妻を生き返らせようとして人造人間を作った博士もいるじゃないのよぉ。みんな、科学の発展のために必死なのよーー! これか普通なのよ」
「……ママ、最後の人はフランケンシュタイン博士だよね! 科学者のエゴのせいで怪物が傷付いて可哀想だったよね。ロバート・デニーロの映画を一緒に観たよね!」
「まぁ、いいから聞きなさいよ。三兄弟は血液型もバラバラなのよね。それぞれの母親が違うのよ。それでね、イケメンなのに、みんな彼女がいないの。どういう反応を見せるのか、あるいは、やはり、イケメンには作用しないのか、それともイケメンにも有効なのか知りたいのよーーー。三人には内緒で調べてきてね」
はぁ、そうですか……。
強引な展開に眩暈を覚えてしまったが仕方あるまい。
ちなみに、新薬の開発には幾つかの工程があり、まずは、草木や虫や鉱物などから『薬のもと』となる素材を見つけることから始まる。マウスや兎などの動物を使って非臨床試験を行い、その次に治験と呼ばれる臨床試験を行なう。
つまり、ママは娘を使って秘密裏に臨床実験をしたいというのだ。
とはいうものの、ママの目的はそれだけではない。
「なぁーんて、半分本気で半分は冗談よ。ほんとは、詠美を一人で家に置いておくのが心配なのよ、それで出張を断ろうとしたら、会長さんが面倒を見るとおしゃったのよ」
「そ、そうなんだ」
年末年始、ママは熱帯雨林の中にある研究所に出張して留守にする。大徳寺家の別荘には信用できる管理人夫妻もいるので防犯面において安心なのだろう。
☆
ここまでの道のりは長かった。空港や機内で、色々な男性に声をかけられて大変だった。
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