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「よくおいでになりました。管理人のトム・アービングでございます」
古びた桟橋で出迎える初老のトムは穏やかで、その声音は低くて渋くて顔立ちが俳優のモーガン・フリーマンに似ている。
「さぁ、トランクをお預かりします。どうぞ、助手席にお乗り下さい」
この島の住民の数は五十名弱。大徳寺製薬の薬草園で島民が働いている。海沿いの未舗装の道が内陸部に進むと粗末な平屋の民家が見えてきた。軒先に豚や鶏や放し飼いの犬がウロウロしている。鉄骨の建物や二階以上の建造物見当たらない素朴な景観が続いている。
「その先を左折いたしますよ。急カーブになりますから踏ん張ってくださいませ」
ひえー。脇道に入るのはいいけど雑木林の枝葉がフロントガラスに当たりそうになっている。丘を登り切ると別荘の門扉が見えてきた。別荘は二階建てでプールも備わっている。玄関までの小道の周囲には美しい芝生が敷き詰められていて緑の木々や花々が美しい。
「エイミ様。ようこそおいでくださいました。レイチェル・アービングでございます。エイミ様の荷物はこれだけでございますか?」
車から降りると五十歳後半の白人女性があたしを出迎えてくれた。細身で落ち着いた雰囲気の金髪でショートカットの女性。その隣りにいるのは末っ子かな。
「こんにちは!」
男の子の声は甲高い。まだ声変わりしてない。迷彩柄のハーフパンツにスヌーピーのイラスト入りの黒いTシャツ。こんがりと小麦色に日焼けしている。天然パーマの前髪がクルリンとしておりトイプードルのように愛らしい。
「ようこそ。有田さんですね。初めまして! 大徳寺義人でっす! 小学五年生ですっ!」
二重のクルッと丸い目。好奇心旺盛な顔つきをしている。末っ子が、タタツと廊下を走り、リビングの扉を開きながら叫んでいる。
「ケイト、お客さんが来たよぉ~」
玄関は吹き抜け天井て広々としている。燦々と射し込む南国の太陽のおかげで廊下も玄関も明るい。建物の中央に階段がある。その手摺りも蔦模様の鉄製のもので、とてもエレガント。
リビングは二十畳ぐらいはあるだろう。この部屋から、プールサイドにそのまま出られるようになっているらしい。
「やぁ、いらっしゃい」
ケイトは次男。白人の母と日本人の父を持つハーフの美少年。シルクのシャツにフアッとワイド幅のパンツは上下ともに桜色。透けるように決め細やかな白い肌。肩までの栗色の直毛をフランス革命期の貴族のように赤い絹のリボンで束ねている。そんなケイトが物憂げに前髪をかきあげながら呟いた。
「有田さん。久しぶりだね。随分と髪が伸びたよね。今の方がうんといいね」
「ありがとう。ケイト君も髪が伸びてるね」
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