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入学した頃は、お互いショートカットだったけれど、今は二人とも腰までの長さになっている。去年、同じクラスだったのに、残念な事にプライベートな話をしたが一度もなかった。
ケイトは女性に対して愛想が悪いことで有名だ。でも、地下鉄の駅で不良に絡まれているオタクを救い出すという硬派な一面もある。
ほどなく、末っ子がアイスティーとお菓子を運んできた。午後二時。緊張していたこともあり、冷たい飲み物がスッと喉に染み込む。
美味しいわ。二つ目のマドレーヌを頬ばっていると末っ子は嬉しそうにニコッと笑って立ち去っていった。正直なところ、あたしが、この別荘に来るなんて不自然な事だ。
「ごめんね。あたしが来たこと、迷惑じゃない?」
「歓迎しているよ。君の母親は年末年始はアマゾンの研究機関に行ってるんだよね。僕達は、いつか、お礼をしなくちゃいけないと思っていたんだよ……。だって、君のパパは僕の従兄の直人のせいで死んだんだもの」
実は、あたしのパパは大徳寺製薬の情報システム部で働いていたのだが、会社の仲間とバーベキューをしている時に、河で溺れた少年を救おうとして亡くなった。あたしは七歳だった。
「直人は伯母が不妊治療の末にやっと生まれた子なんだよ。助けてもらって、僕達も感謝している。遠慮しなくていいよ。今、うちの兄貴は釣りをしているけど、夕方になれば帰ってくると思うよ」
ケイトが、さぁ、案内するよと言って機能的なキッチンへと向かっている。
「あのさ、管理人の夫妻は別荘のすぐ脇にある小さな家に暮らしているんだ。だから、夜、飲み物が欲しい時は、自分で冷蔵庫の中のものを飲んでね」
キッチンの後は、書斎などの一階の様子を見渡してから二階の部屋に入ったのだ。
「それぞれの部屋にシャワールームがあるけど、浴槽に浸かりたい時は一階のバスルームを使っていいよ。シャンプーやトリートメントは一階のバスルームに置いてるけど、自分の愛用品を持ってきているなら、それを使ってね」
その時、あたしは気付いた。
「いけない。リンスを持ってくるのを忘れちゃった! でも、まあ、無くてもいいかぁ……」
そう思っていたのだがケイトは自分の部屋から、いそいそと紙袋を持ってきた。
「はい。僕のを使ってよ。化粧品とかも余分に持っているからいつでも言ってね」
ありがとうと素直に受け取った。やっぱり、ケイトは親切だ。立ち去り際にケイトがウインクした。
「僕のこと、ケイト君なんて言わなくていいよ。ケイトと言って」
「あっ、うん。そうするね」
ここの夕食は七時と決まっている。
「自由に寛いでね。ベッドメイキングは午後二時からだよ。メイドさんがその間に部屋の掃除をしてくれるんだ。その時間帯はリビングに来て寛ぐといいよ」
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