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用意された部屋はヘパーミントグリーンを基調にしたガーリーな雰囲気で素敵なバスルールもある。ベランダからは遠くに連なる島並が見える。ほとんどが無人島だという。
疲れたな。でも、荷物を片付けなくちゃ……。といっても、洋服以外の荷物は殆ど無い。
ハンガーを手に取り、広いクローゼットに衣服を収納しなら思い返していく。さーてと、残るは大徳寺光人さんだよね……。実は、高校入学直後に一度だけ話した事がある。
あの日、放課後に渡り廊下を歩いていると、唐突に強風が吹いた。抱えていたクラス全員分のプリントの用紙の束が散らばってしまって、これは大変だと慌てた。薄暗い花壇の前でまごついていると、あの人が登場したのだ。
甘く華やかな香りがして胸がトクンと疼いた。
『大変だね。オレも手伝うよ……』
それが大徳寺光さんなんだけど、あの時は、まだ誰なのか分かっていなかった。近距離で彼と目が合った途端に超絶イケメンの笑みにぶったまげて呆然となったんだよね。
『これで全部あるよね?』
なぜか、彼は、ジッとあたしの顔を覗き込んだ。
『えっ?』
その瞬間、あたしは丸ごと魂を吸い上げられそうになり惚けてしまった。
やぁ、久しぶり。君は運命の女性なんだよ……。そう告げられているかのように感じてしまい、おおいに動揺した。
あたしったら、そんな幻聴を感じるなんてどうかしてる。やばい。妄想に飲み込まれそうになり 鼓動が速まった。ドキ、ドキッ。一瞬、勘違いしそうになったけれども、正気を取り戻して慌てて頭を下げたのだった。
『あ、ありがとうございましたーーーーー! 失礼します!』
うおーっと逃げるように物陰に向かうと胸を押さえ続けながら肩で大きく呼吸する。ハァハァ。全身がゾクゾクして眩暈がしてポーッとなった。あの時の衝撃を昨日のことのように覚えている。
あの後、あたしは電車の中で二人の女生徒が興奮気味に長男に就いて語っているのをたのだ。彼は王子様のような存在だ。
『ねーねー、流奈ちゃん、光様の事、聞いた? 川辺のホームレスの小汚いおばぁさんが蛇に噛まれたらしいよ。ペットボトルの水で傷口洗い流して毒を吸い出したんだってよ』
『さすが光様。素敵ね。ああーん、ドキドキ。女子の永遠の憧れよーーー』
親切で成績優秀。完全無欠の王子様。そう、それが長男の光人さんだ。そんな人と暮らすなんて緊張する。どんなふうに話しかけたらいいのかな。とりあえず、あの時、言えなかったお礼を言わなくちゃ。
そんな感じでソワソワしていると階下から末っ子が知らせに来た。
「エイミーお姉ちゃん、お兄ちゃん帰って来たよ。バイクの音が聞こえるよ!」
下に降りる前に鏡を覗き込んだ。玄関マットの手前で待ち構えるいると扉が開いた。
きゃーーー。カッコいい……。
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