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「うーん。特には無いかな。あっ、でも、猫や犬の動画はたまに見て癒されてるよ。義人君は何か好きな動画あるの?」
「よしとって言わなくてもいいよ。クラス子は、僕の事、よっちゃんって言ってるんだ」
「へーえ、そうなんだ。それなら、あたしも、よっちゃんって言うようにするね」
ケイトは、優雅な面持ちで、あたしと末っ子の会話を聞いている。どうなる事かしらと心配していたけれども、この場にいて疎外感を感じることがなかった。
初日の夜ということで疲れがどっと押し寄せてくる。そのまま。コトンと眠りに落ちていたのだが……。
思議な事に次の日になっても長男は食卓に姿を現さない。
☆
「おはようございます」
あたしがキッチンに入ると、すぐに朝食を出してくれた。給仕をしながら、ミセス・アービングが自分の事を話し始めたのである。
「生憎、わたしの前の夫は酒乱でしてね」
離婚してからは一人で二人の娘を育てあげたていう。
娘が二人とも嫁いだ頃、トムと知り合ったのね。
「トムと穏やかに暮らせることが何より幸せなんですよ。わたしにとっては、まさにトムは運命の人なんですよ」
いいなぁ。そういう関係性って……。
「我々が、初めてここに来た日、光人坊ちゃまはお母様を失くした直後でございました。絶望して泣いておられました。トムが、そんな光人坊ちゃまに話しかけたんですよ」
へーえ。そうなんだ。あたしも子供の頃に父親を亡くしたから、彼の悲しい気持ちはよく分かる。
「その時、二人で植えた木が花を咲かせておりますよ。ほら、あの赤い花です。光人坊ちゃまは、ここのところ、毎日、トムの友人と釣りに出かけていますね。ところで、エイミ様は、ここでの生活で不便なことはありませんか?」
「とても快適ですよ。御飯が最高に美味しいです。朝から、焼き立てのクロワッサンが食べられるなんて本当に幸せです」
そんな会話をしていると……。
「みんな、おっはよう……」
午前十時。フアッと軽い足取りでケイトがキッチンに現れた。
ちなみに、末っ子はトムと一緒にキャッチボールをしている。末っ子はメジャーリーグが大好きで、年に数回、父親と本場のスタジアムに行くらしい。大谷選手のサインボールも持っているというのだから羨ましいわ。
あたしは、今からクロワッサンを食べるケイトの為に紅茶を注ぎながら尋ねる。
「ケイト君、夜遅くまで起きてたみたいだけど何をしているの?」
「将来の夢の為に勉強をしているんだ。フランス語を覚えたいけど発音が難しいんだよ。実は、将来、モデルとしてパリで暮らしてみたいんだ」
「ケイトならモデルになれると思うよ」
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