第一章 エイミの旅立ち

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第一章 エイミの旅立ち

惚れ薬とか媚薬って、一体、何の役に立つのだろう。  あたしのママは世界的に有名な製薬会社の研究員で、「どんな異性も虜にする」媚薬を作ることに没頭している。 『あたしは少子化を憂いているのよ。年金制度が崩壊しないように開発しているのよ!』  今回の案件では健康な若い男女が必要なので、ママは大徳寺グループの会長様に被験者を集めて欲しいと正面きって嘆願したという。 『わたしは、これに賭けています。ぜひともリアルなデータを集めたいのです!』  すると、カリスマ性と品格に満ち溢れた会長が思いがけないことをに告げた。 『それならば、君の娘とわたしの孫達で実験すればいい。孫にはガールフレンドがいない。薬がどう効くのか楽しみだね』  それが、この三人。  大徳寺光人、十八歳。大徳寺ケイト、十七歳。大徳寺義人、十歳。  セレブな三人のイケメン兄弟を相手に媚薬の実験とは何だか恐れ多い。そんなことをしていいのだろうか。不安がないと言えば嘘になるが後には引けない……。        ☆ 「うわー、海が綺麗!」  ここはカリブ海。コバルトブルーの海域に岩礁や無人島が点在している。 颯爽と通過しているクルーザーを追うように海鳥が飛んでいる。直射日光をモロに受ける船尾のデッキにいるのだが、さすがに暑くなってきたので船室に入ることにした。  ブリッジで操縦するは長身のアメリカ国籍の黒人美女。  あたしは子供の頃から英会話教室に通っているので、成田から同行している案内役の若い女性のヴィクトリアとの会話には困らなかった。  大徳寺家の別荘は、かなり辺鄙な場所にあるらしい。 「島の周辺は珊瑚礁が取り囲み浅瀬が続いています。タンカーやフェリーのような大型の船は航行できません。この近辺の群島が私有地となっていますので部外者は立ち入れません」  ノースリーブの白のコットンシャツにタイトな紺色のミニスカート。ヴィクトリアは、いかにもキャリアウーマンといった容姿の美人なの。そんな彼女が茶目っ気たっぶりに言う。 「エイミ様も島に到着したなら宝探しをしてみてはいかがですか? 海賊の洞窟と呼ばれている場所があります。そこから観る夕日は美しいそうですよ」   海賊という言葉に胸が弾む。南の島は開放的でいかにも楽しそう。日本は北風が吹くというのに、この界隈は常夏なんだよね。  あたしは、GUの水色の涼しげなワンピースに麦わら帽子という服装でのんびりと過ごしている。  有田詠美。高校二年生の女の子。傍目には旅を満喫しているように見えるかもしれないが、最初から乗り気だった訳ではない。  あれは、二学期の終業式の四日前の午後の事。  喉が痛いので薬をちょうだいと伝えると、ママは、炎症を抑える粉薬と一緒にの媚薬の錠剤を渡してきた。それを飲んだせいで奇妙なことが起きるようになった。
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