4、ニュー・ワールド

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 相手が非武装とはいえ、一対複数だ。速さ、正確さ、大胆さ、冷静さ、すべてにおいて完璧で、改めてマーサの凄さを思い知らされる。  すみやかに交流ルームをでる。うさぎが無言で後につづく。  病室は交流ルームより上の階だ。エレベーターだ、と思ったが、どちらか迷った。迷ったまま、瞬間の判断で、一般のエレベーターが降りてくるのを待った。業務用エレベーターは反対側だ。  ドアが開くと、中にはジェニを背中におぶっているマーサが乗っていた。 「ハイ、コハク」 「マーサ」  ジェニは、ただ眠っているように見えた。 「ジェニだよ」  うさぎに言うと、うさぎは挨拶した。 「はじめまして、ジェニ」  エレベーターが下降しはじめる。続いてコハクはうさぎにマーサを紹介した。 「こちら、マーサ。マーサ、彼は」 「ねずみだね?」 「おしいです。もう少し大きなげっ歯類だ」  マーサはうさぎの言葉に、くぐもった声で笑った。  エレベーターが二階につく。外来患者のフロアだ。警備員が数人、病院スタッフや患者が大勢いる。 「ここで待って」  言われるがままベンチに座って待機する。マーサは車いすを持ってきて、ジェニを乗せた。ぐらぐらする身体を支えながら、病院を出た。 「セキュリティがざるだ」  うさぎはつぶやく。  コハクが目で訴えると、うさぎは「すまない、非番なのについ」とにっこりする。  マーサが手配した車に乗りこみ、公道へ出た。しばらく誰もしゃべらなかった。  四つめの信号待ちで、ようやくマーサが口を開く。 「今日ジェニを引き取りに来た連中が、ぼんくらばかりで助かった」 「いつからこうしようと考えてたの」 「最終的に決めたのはついさっき」 「……嘘だろ」  無計画さにあきれる。緊張がとけてゲラゲラ笑った。  中身が空っぽのジェニは、それでも身体はずしりと重い。もう二度と触れることができないと思っていたコハクには、その重さがとても嬉しかった。
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