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コハクは喉がかたまり言葉がうまく出てこなかった。
「それ、って」
やっとの思いでつっかえながら言うと、うさぎの手は、するりとコハクの手を包みこんだ。そのままぎゅっと握ってくる。
指をからませて、握り返すと、うさぎは変な咳をした。
「ええと」
うさぎはもう一度喉のあたりで変な音をさせ、ようやく言葉をつなぐ。
「コハク、君とずっと一緒にいたい。だから、能勢のところに行かないで。……それとごめん、さっき、その、ぼくの部屋で、強引だったんじゃないかって怖くなってる。ぼくを嫌いになってない?」
こわばった笑いを顔にはりつけている。
その心細そうな様子に、コハクの心臓は撃ち抜かれた。
そんなかわいいことを言われてしまうと、嫌でも意識する。先ほどの情事がくすぶりだす。
目の前にうさぎの身体があって、なのに、まるで何も知らない、お互いの肌や粘膜の温かさ、柔らかさ、匂い、味、まだそれら全部を知らないような拙く遠慮がちなふるまいに、胸が苦しい。
「嫌いになんかなるわけない……。だってすごく、すごく、」
そこまで言ってためらったが、意を決して言った。
「好きなひととするの、気持ち、よかった」
ひどく小さな声でしか言えなかった。
「コハク」
うさぎはごく軽く、ふわりとコハクをハグした。まるでコハクの周りに壊してはならない空気の層があるかのようだ。わずかに触れあう、ぎりぎりのハグだった。
「ええと……うさぎ、」
「うん」
「ちゃんと触ってほし……」
吐息まじりに懇願する。うさぎは首を横に振った。
「また、エサをもらってない犬みたいになる」
「いい……なっていい、だからお願い」
コハクは自分から空気の層を壊した。うさぎを力任せにぎゅうぎゅうと抱きしめた。
うさぎの手がコハクの背中にふれ、そのまま下におりる。腰に留まる。さらに下におり、さまよう。しばらくうろうろしていたが、とうとうギブアップする。
「これは……、ええと、失礼」
うさぎは、妙に礼儀正しい所作でコハクの足元に跪くと、コハクの衣服をチェックする。長衣をスカートでもめくるように開いていくが、めくってもめくっても次の布に阻まれてしまう。
うさぎはすぐに心が折れて、コハクの膝に頭を押しつける。
「コハク、この服はやはりぼくには難しい」
「大丈夫。近道を教えてあげるから」
コハクはうさぎの手をとって、見つけるのが困難なスリットの中に導き、するすると外皮を剥くように布をかきわけた。腰のあたりにある隠された紐をうさぎに見つけさせた。ひっぱると、はらりと、内側の布がはずれ太腿がじかにあらわれた。
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