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アメを起こさないようこそこそと家を出たコハクは、ファーマシーとは逆の断崖へ進む。
そこは7メートルほどの高さの崖で、卓越したライディングセンスをもつコハクでも躊躇する、危険な場所だった。
ジャンプバイクがいくら頑丈で衝撃に強くても、この高さから飛べば、バッテリは消耗するしマシンに負担がかかる。何より危険だ。なのに、子どもじみた行為だとわかりながら、辛抱できない。
「男の子というのは、どうしてそういう危ないことをするんだろう」
再び祖母の溜息が聞こえた気がして、コハクは心の中で言い訳する。
「時々やらないと、腕がなまるんだよ、ばあちゃん」
戦闘が起こってしまえば、もっとひどい道、いまにも崩れそうなガレキの上や亀裂で分断された高速などを走らねばならない。その時のための訓練と度胸試しだ。
決断し、コハクは助走をつける。
ドゥン! とエンジンがうなる。
腰をうかし、前輪を高く、コハクの身体はバイクと共に飛ぶ。
コハクは身体全体が空中に投げ出される感覚に身をゆだねる。バイクと一体になる。
いつもより高い。
アタリをつけていたポイントと寸分たがわぬ地点に、後輪から着地すると、バイクは大きくリバウンドする。目の前に丘があり、そのまま跳ねあがり駆けのぼる。丘はかっこうのジャンプ台となりコハクは再び空に放り出されるのだ。
突破してしまえ!
コハクは奇声をあげた。
ジャンプバイクさえあれば、この身一つでどこへだって行ける。自由だ。
そんな風に思うと、いつの間にか笑っていて、腹の底から声が出てしまう。
誰もいないまだ未明の時間、山の中にコハクの笑い声が響き渡る。
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