4、ニュー・ワールド

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 コハクを追いかけてきたうさぎは、コハクの腕をつかんで強い口調で言い募った。 「どうして君は、ぼくなんだ。その美貌なら選び放題だろうに。ぼくは金もないぞ、軍でもたいして地位は高くない。見てくれもこんなだ。いったいなぜだ」  コハクはおそるおそる尋ねた。 「怒ってるの?」 「怒るべきは君だろう。あの時ぼくは君と一緒に逃げなかった。君を助けなかった。アメくんのことだって」 「うさぎ?」 「ごめん」 「どうして謝るの?」 「あの時助けることができず、一緒に逃げてやれず本当にごめん」  うさぎは苦しそうに言う。 「そんな昔のこと。…………覚えてくれていただけで」  うさぎはあの時のことを忘れずにいた。それだけで。 「アメくんのことを知りたいだろうに教えてやれず、すまない」 「メッセージを届けてくれた。こっちだってお礼をちゃんと言っていなかった。……ありがとう」  そして早口でつけたす。 「あと、ええと、あの日、蛇からも助けてくれて。ずっと、お礼を言おう言おうと思って結局言えなくて。軍のキャンプに行ったんだ。けど、もう、誰もいなかった。眼鏡、ひょっとしてあの時俺がふっとばしたのが原因で壊れ」 「……ぼくは君をかわいそうだと思っていた」  コハクはほほえみ、首を振った。 「俺はかわいそうじゃない。ひどいめに」  ひどいめにあったけど、と言いかけたが、思い直してうさぎの目を見ながらはっきりと言った。 「レイプされたけど、『かわいそう』じゃない」 「そうか」 「強い。……強いから平気だよ」  コハクが笑ってみせると、うさぎは、自分の髪をかきみだした。 「どうして君にキスしたか、今わかった気がする」 「今?」  コハクはふきだした。とても緊張していた。自分がどんな顔をしているのかわからない。  うさぎは眉間にしわを寄せ、一語一語区切るように言った。 「ぼくは、君が、弱くて、守るべきものだと、考えていた。違ったんだ」 「うん」 「思わずキスしてしまったのは、君が強くてきれいだったからだ」 「そんなの! ……もっと早くわかるべきじゃない? どうして今なの」  コハクがますます笑うと、うさぎはすねきった少年みたいな顔をした。
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