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「祭りの夜、目があった瞬間わかった。ただ、言語化できたのが今だ、ってだけだ。今日だって、そんな物語からぬけでてきたみたいな恰好で、」
ふてくされたように、ぼそぼそとつけたした。
「君はずっと物語にいる。最初から。……泉で水浴びをしていた。無作法だとわかっていながら、見惚れた。ずっと見ていたかった」
「あれは、断水で。土埃を流したかったんだ……誰かに見られているなんて、思いも……」
うさぎはコハクをじっと見ている。その視線の強さがコハクを焼いてしまいそうだ。通りには太陽が高くのぼっているにもかかわらず、人かげはない。空っぽの街角で二人は見つめ合った。
「行こうか」
うさぎはコハクに手を差しだした。
「どこに?」
コハクは疑問を口にしながら、迷わずその手に自分の手を重ねあわせた。
「ジェラートを食べに」
「おすすめはある?」
ショップのガラス窓に、ひびがはいっていたのを見たばかりだ。
「そうだなあ、ピスタチオかな。特別リッチで贅沢だから」
うさぎはコハクの受け売りを言うと、へたくそなウインクをした。コハクはその不器用さに、肩を揺らして笑った。手をぎゅっと握った。
二人はまっすぐにうさぎの部屋に行き、ドアが閉まりきらないうちに互いの背中に腕をまわした。
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