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「うさぎ、……」
「何」
「混乱してる」
「なぜ」
「だって、だってこんな」
ずっとうさぎに受け入れてもらえるはずがないと思っていた。腕の中にいてもまだ信じられない。
遠くで銃声がした。コハクが身をかたくすると、うさぎは冷静に言った。
「今週いっぱいくらいまでは、このエリアは平気なはずだ。心配しないで」
それでもうさぎは、用心のためか窓の鎧戸を閉めた。部屋が薄暗くなった。
うさぎは窓辺から、部屋の中でたたずんでいるコハクを振り返った。あらためてコハクを発見したかのような表情になり、ため息を深々とついて、「まいった」と言った。
コハクはびくりとし、こらえたがだめだった。ぼろぼろと涙がこぼれた。
「え、うわ、コハク? どうしたの?」
「だって、……今、……っ、く」
「待って! ……違う、違うよ、ため息をついたのは自分への失望だ。ごめん、違う、誤解だ。君は何も悪くない」
うさぎはコハクの顔をのぞきこむが、コハクは涙がとまらない。
「うさぎは無理しなくていいんだ、俺はハグだけで……、ハグしてくれて、別れを見送ってくれるだけで……よかったんだ」
「こんな、ああ、泣かないで。そもそもぼくは、再会してすぐ君にキスしてしまった。あの瞬間からはじまっていた。抗ったが、最初から無理だったんだ。もっと言うと、泉で君を見た時から。
そんな自分を滑稽に思って幻滅したわけで……」
言いながら、うさぎは笑いだした。
「『冷淡な美姫』だという評は嘘だとしか思えない」
コハクは何を笑われたのかわからずうさぎを睨むと、うさぎは慌ててもう一度真剣な顔をつくり、ごめん、ごめん、と何度も謝る。
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