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合意のうえの情事において、こんなに劣位にたたされたことなんてない。
「何を気にしているの。すべてが素敵だよ」
うさぎは一見不器用そうな、しかし何もかもわかっている長い指で、コハクの胸をいじり続ける。コハクの乳首は火照ったように腫れ、硬く勃起している。それをつまみ、舐め、さらにいっそう尖らせるように、うさぎは吸ってくる。おまけにコハクがどんな顔をしているか時々確認してくる。それを怒ると、「眼鏡かけていい?」とぬけぬけときいてきた。
「眼鏡、修理に出してるんじゃ」
「とっくに終わってる。でも君をはっきり見ないようにと思ってつけなかった。……今かけたら怒る?」
「怒る」
「残念。乱れる君をじっくり見たいのに」
うさぎはシャツを脱いで、上半身裸になった。さえない印象の男が、別人のようだ。鍛え抜かれた身体にコハクは抗議する。
「ずるい……」
「あー……、一応軍にいるからね」
「猫背で騙した」
「姿勢の悪さは訓練でも矯正できなかった」
うさぎは軍配給の認証マークがついたコンドームの封をあけて、指につけた。
察したコハクは、小さなプラスチックパッケージをとりだした。コハクの肌や体質となじむ処方のもので、ちょうどいい手の平大の分量が安全に真空包装されている。それを歯で開けて手にとった。
「口にしても大丈夫なやつだから」
いかにも慣れているという感じの、すれた風に言い、うさぎの指になすりつける。
「味見をしろって意味?」
うさぎは口元だけで笑う。意地の悪い笑い方だ。頬がカッと熱くなり、余計なことを言ったと後悔した。
うさぎはコハクの脚の間をしげしげとのぞきこむ。
「とてもすっきりしてる。いつもそうしてるの?」
「……別に。時々邪魔になって手入れしているだけ、みんな好きだっていうよ」
また一笑にふされると思った。しかしうさぎは意外にも不機嫌をにじませた。
「そんなこと言われると、嫉妬する」
「……」
予想外の反応に言葉をなくす。
真顔のままうさぎは、コハクの髪を指にからめた。コハクの目を見ながら一筋、口にふくんだ。
「何す……」
うさぎはコハクの髪を口からだすと、「いつも柔らかくて甘そうでキラキラしてて、食えるかなって。でもさすがに無理だね」と笑った。
毛先がうさぎの唾液でぬれそぼっている。感覚のないはずの毛先がじんじんと熱をもつ。
コハクは泣きそうになった。
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